定番野菜が極上な一菜一皿に
なす
なす
地方品種が多く、地域の食文化と深く結びついているなす。料理の幅も広く使い勝手のよい野菜のはずなのに、加熱によって色が悪くなってしまったり、ほどよい食感に仕上げるのがむずかしかったりと、調理に苦手意識を持っている人が多いのではないでしょうか?栄養豊富な皮を色鮮やかに、かつ食べやすい食感にするのは、意外にも"レンジ加熱"がポイントです。今回は、そんななすと向き合っていきます。
なす
果肉のほとんどが水分ですが、紫の皮にはポリフェノールが含まれ、その機能性にも注目されています。抗酸化作用が高く、がんや高血圧の予防にも効果が期待でき、機能性表示食品として流通するものも。皮の栄養を逃さずに食べることが大切です。
<おもな栄養素>
カリウム、ナスニン、コリンエステルなど
食文化継承の立役者!個性あふれる地方品種
なすの原産はインドの東部。今でもカレーをはじめ、インド料理にはなすが多く使われています。日本には、中国から伝わったと言われていますが、明確には分かっていません。奈良時代の正倉院文書の中に、なすを献上した記述があることから、奈良時代には既に栽培されていたようです。徳川家康がなすを好んで食べていたとのことで、江戸時代には献上品として促成栽培(寒い時期に加温して栽培する手法)が確立されていたと言われています。
古くから栽培されていた歴史から、現在も地方品種が各地に多く残っているのが特徴で、約300種もの品種があります。これは、日本の野菜産出額が1位のトマトと同じぐらいの数。それだけ多くの品種が残っているということなのです。
品種は、形や大きさによって大きく分けることができます。全国的に主流になっているのは、用途が広く栽培しやすい長卵形のもの。地方品種では、関東で栽培される卵形の「寺島なす」は、江戸東京野菜としても登録されています。東海・関西では、流通量が多い長卵形の「千両なす」、九州では長さが30cmにもなる「大長なす」、北陸や京都では「賀茂なす」などの丸なすなどがあります。
地方によって形や大きさが異なるなすですが、注目すべきはその地方品種のほとんどが、各地域の郷土料理に深く関わっているということ。食のグローバル化が進み、郷土料理は衰退しつつある中でも、なすにおいては今もなお、郷土の食文化を継承し続けているのです。
カスミ子先生から、ひとことアドバイス
その地域に行かないと食べることのできないなすも多いわ!
手で裂くから美味になる、裂きなす
なすの定番料理である「焼きなす」。皮を焦げるまで焼いて、中の実をとろっとさせたら、皮をむいて生姜じょうゆなどで食べます。もちろん、これもおいしいのですが、栄養豊富な皮が食べられないのが残念ですよね。
皮がついたまま、焼きなすのようなとろっと食感にするためには、レンジ加熱がおすすめ。皮に油を塗って、ラップを密着させて加熱すれば少量の油ですみ、やわらかく仕上がります。さらに、加熱後はラップごと氷水で冷やすのもポイント。こうすることで色止めになり、皮の色が鮮やかに。仕上げは、なすを手で裂くのがおいしさの秘訣。ジューシーさを残しつつ、味の絡みもよくなります。
裂きなすのレシピ
・なす…2本
・ごま油…小さじ2
・しょうゆ…適量
・青ねぎ…適量
・おろし生姜…適量
作りかた
① なすは額を落とし、ラップの上に置いてごま油をかける。(なす1本に対しごま油小さじ1)
② ラップをぴっちりと巻く。
③ レンジで600W×2分加熱する。(硬い時は30秒追加)
④ ラップごと氷水に入れ粗熱をとる。
⑤ 食べやすい大きさにヘタの方から手で裂いて、お皿に盛る。
⑥ しょうゆをまわしかけ、青ねぎ、おろし生姜をのせる。
カスミ子先生から、ひとことアドバイス
ラップごと氷水に入れるのが水っぽくならないコツよ!
乾燥と低温から守り、最適な保存環境を
保存していたなすが、気づくとシワシワになってしまったことはありませんか?なすは水分が多くインドが原産の野菜なので、乾燥と低温にはとても弱いのです。そのため、家庭での保存にも、ちょっとしたコツが必要に。
1本ずつラップで巻いて保存袋に入れたら、野菜室に立てて保存するのがベスト。ラップで巻くことによって水分を閉じ込め、他のなすとの擦れも防ぐことができます。また、5℃以下になると低温障害で中が黒く変色してしまうことがあるため、温度の低すぎない野菜室がおすすめです。育っている時の状態と同じ向きになるよう立てて保存して、ストレスを減らしてあげましょう。
カスミ子先生から、ひとことアドバイス
買ってきた時の袋のまま保存してはダメよ!
まとめ
奈良時代には既に栽培されていたと言われるなす。日本の古い伝統を、野菜を通じて継承していることは誇らしいことですよね。近年では、ヨーロッパ産のカラフルな品種も栽培されるようになり、伝統を守りつつ新しい文化も取り入れることができるのは、日本の強みなのかもしれません。旅行などで各地を訪れる際には、ぜひ地方品種も味わってみてください。もしくは、お取り寄せで味比べをしてみるのもいいですね。保存方法や調理法のコツをおさえて、たくさんのなすを楽しんでください。
WRITER
野菜や果物のおいしさやすばらしさ伝えるべく、時には優しく、時には厳しくアドバイス。いつもしっかり者でありながら、野菜のこととなると、ついついムキになってしまうかわいらしい一面も。中の人は、野菜ソムリエプロ&管理栄養士の小島香住さん。