あの人と“食べる”を話そう
まんぷくべジinterviewVOL.10
まんぷくべジinterviewVOL.10
今回は彩り豊かな旬野菜を使った「オープンいなり」のケータリングでお馴染みの「YUKIYAMESHI」プロデューサーの寺井幸也さんが登場。お弁当や空間演出を含めたケータリング事業を手がけて10年目、社員食堂といったフードコントラクト事業にまで活動のフィールドを広げています。活動のなかで一貫しているキーワードは“サステナビリティ”。幸也さんにその取り組みについてお話を伺いました。
おいしいだけじゃなく、食の背景を届ける
―― 昨年、社員食堂やオフィス向けのケータリング事業を展開する株式会社ノンピのCSSO(Chief Sustainability Story Officer)に就任されましたが、どういうお仕事をされているのですか?
寺井幸也さん(以下、幸也さん):これまで「YUKIYAMESHI」という個人店で、お弁当やケータリングなど料理家としての仕事が中心でしたが、おいしいだけじゃなく「サステナビリティ・ストーリー(食の背景)」をセットで届ける企業向けのケータリングにリブランドしました。
また、ノンピが運営する社員食堂やカフェテリアなどフードコントラクト事業の中身をどうサステナブルな内容に変えていくかというプロデュース的な仕事も今後手がけていく予定です。
もともと「YUKIYAMESHI」個人店のときから、野菜そのものを器にしてすべて食べられるフィンガーフードに仕立てたり、プラスチック使用量を容器全体の30%以下に徹底したり、取り皿は再生紙を使うなどゴミ問題、環境に配慮しています。また規格外野菜も積極的に使用してフードロス問題にも取り組んできました。そういったことを現在ノンピが企画・運営する約30拠点、年間約200万食を提供する規模に急に落とし込むのは難しいので、フードコントラクト事業においても少しずつサステナビリティの課題に取り組んでいきたいと思っているところです。
―― 3月3日にオイシックス・ラ・大地とシダックスが共同運営する職域食堂「雨晴食堂(あめはれしょくどう)」がゲートシティ大崎にオープンしましたが、幸也さんも参画しているのですね?
幸也さん:はい。もともと空間演出を得意とするケータリング事業をしていたので、今回は店舗コンセプトと空間プロデュースに携わりました。「雨晴食堂」は単にお腹を満たすだけではなく、同僚とのコミュニケーションが活性化してパフォーマンスが上がるような新たな価値を提供する空間デザインを意識しました。

幸也さん:誰がいつ来ても心地よいと感じられる空間にするために、店内をいくつかのゾーンに分け、それぞれ異なる雰囲気を感じられるようにデザインしています。一人で考えごとをしたり、落ち着いて話をしたい時には木の温もりを感じる柔らかな雰囲気の空間、仲間とわいわい盛り上がりたい時には明るい緑あふれる空間、会食ができる予約制個室も完備し、さまざまな過ごし方ができるように考えました。
雨晴食堂の運営やメニュー開発は、シダックスグループで企業や大学・高校、アスリート施設など全国約1,000ヵ所以上で食事を提供しているシダックスコントラクトフードサービスが担い、使用する食材の提供は食品宅配サービスをメインに手がけるオイシックス・ラ・大地が手がけます。

幸也さん:ランチはオイシックス・ラ・大地の業務用ミールキットを使った「Oisix定食」や「日替わりランチ」、麺類や丼などボリュームたっぷりかつ懐にもやさしいメニューを提供します。ディナーは唐揚げや規格外野菜を使ったアヒージョなどの居酒屋メニューを楽しめます。フルーツの味わいを活かしたクラフトサワーやノンアルコールドリンクも揃えているので幅広い層に利用していただきたいですね。
メニューのなかで唯一僕が監修したのが、ランチの目玉ともいえる「Oisixサラダバー」です。このサラダバーは規格外野菜を含む20種以上の野菜が味わえるのですが、使用する野菜はオイシックス・ラ・大地が契約している約4,000軒の生産者から届くこだわりの野菜を週替わりでたっぷり摂れるというもの。野菜の魅力を五感で楽しめるよう、什器の選定や装飾デザインまで細部にわたりプロデュースしました。
幸也さん:僕は毎月Oisixが契約している農家さんを訪ねているのですが、有機農法にこだわった方など、Oisixの厳しい栽培基準を満たした農家さんたちが作っているので本当においしいんです。そのおいしさをそのままに、社食のような場所で一番魅力的に届けられる形は何かと考え、生野菜やグリル野菜、スープやデリを含めたサラダバーという形にたどり着きました。
―― 最近では猛暑など気候の影響でも規格外野菜が多く収穫されると聞きますが、実際にそういった野菜をご覧になる機会があるのですね?
幸也さん:形がいびつだったり、傷があったりすると一般市場では求められる規格から外れて売りにくくなり、収穫できなかったり、いたし方なく廃棄に回ってしまうものがあると聞きます。オイシックス・ラ・大地ではふぞろい野菜の取り扱いや、見た目の規格は厳しくせずに取り扱っています。規格外でも味に違いはなく、本当においしいんですよ。今後はそういった規格外野菜を、サラダバーのスープやデリなどの加工料理にも積極的に使っていけたらと考えています。

幸也さん:また、生産者の情報や畑でのフードロスなど農家さんが抱える背景のストーリーが分かるような展示や二次元バーコードなどを設置して、食べながら学べる場所にもしていきたいですね。「本当のおいしいって何だろう」といつも考えるのですが、生産背景をどれぐらい知っているか、その深度でおいしさも変わると思っています。
―― 背景のストーリーも「おいしい」と感じる要素の一つということですね。彩り豊かな20種以上の野菜のおいしさと、つくっている農家さんたちのストーリーも一緒に味わえるなんて、贅沢でありがたい一皿になりそうです。
幸也さん:今後の展開として「雨晴食堂」だけでなく、ノンピが運営する社員食堂やイベントなどの場で、オイシックスの野菜をたっぷり食べられるこのサラダバーを導入して、農家さんの背景ストーリーもセットで届けられたらと思っています。
背景を知ると、選択の仕方が変わる
―― 幸也さんご自身がサステナブルな取り組みを意識するようになったそもそものきっかけを教えていただけますか?
寺井さん:「YUKIYAMESHI」を始めて2年ほど経った頃、何万食も作るようになるにつれ、使っている食材や生産背景についてもっと知るべきではないかと、ふと怖くなったんです。
そこで翌年から、週末には無農薬や有機野菜を作っている農家さんにアポイントをとり、何をもって規格外なのか、農法についてなど1年かけて学ぶ旅を続けました。次第に、大人数のフィンガーフードを提供する際も、農家さんに対しての感謝や、絶対に残されたくないという思いが自然に生まれてきましたね。
―― 幸也さんがノンピに加わり、取り組まれているケータリング事業「サステナビリティ・ストーリー・テーブル」は、そうした生産背景も目に見える形で表現し、体験できるということですか?
幸也さん:そうですね。ケータリング料理には規格外野菜などを使用したメニューを提供し、僕と生産者さんとのトークショーを開催して、なぜおいしいのか、その理由みたいなものも届けたいと思っています。今後は子供向けのおやつ作りなど体験もセットにしたオプションも考えているところです。
―― 暮らしのなかでサステナビリティを考えたり、取り組み始めたいと思っている人にアドバイスをいただけますか?
幸也さん:まず、考えて調べることですね。自分が食べているもの、使っているもの、着ているものが、誰がどこでどういうふうに作っているか、どういう会社の商品なのか。僕は無知が一番怖いと思っているのですが、知ると選ぶものも変わってきます。今はスマートフォン一つで何でも検索でき、学ぼうと思えばすぐ学べる環境。選択の仕方が分からないという方は、まずは学び、知ることから始めてみてください。
また、スーパーで買い物するときは、おつとめ品から選んでみるのもいいですよ。当日もしくは2、3日のうちに使い切るものですし、値引きされているのでありがたいですよね。
先日、野菜くずや賞味期限切れなどの食品残渣を堆肥に変える会社へ見学に行ったのですが、ゴミ収集車からまだ食べられそうな野菜が出てくるんですよ。食に困る人たちがいる一方で、多くの食品が廃棄されているなんておかしな世の中ですよね。そうした光景を目の当たりにすると、できるだけかわいそうな野菜から救いたい。こうした背景を知るとまた、選び方が変わってくるかもしれませんね。
1988年、鹿児島県生まれ。料理家、YUKIYAMESHIプロデューサー、株式会社ノンピSCCO(Chief Sustainability Story Officer)。2015年より、彩り豊かな家庭料理をメインにしたケータリング事業「幸也飯」をスタート。大手企業やイベントケータリングを数多く手がけるほかファッション誌やWEB媒体におけるフードスタイリングやレシピ提供、飲食店プロデュース、企業との商品開発、イベント出演、オンラインサロン運営など幅広く活動中。好きな野菜は「なす」。なかでも推しである「トロなす」はシンプルに焼くだけでトロっととろけるような食感で、こんな贅沢な野菜はないと思うほど。 |
WRITER

敬食ライター。野菜ソムリエ。都内飲食店を中心にマルシェや農家、料理研究家などへインタビューし、記事を執筆。ときどき愛用のカメラで撮影も。野菜・果物を好んで食べない夫が喜ぶ、野菜がたっぷり摂れる料理を研究中。