土を思わせる球体の器に包み込まれた料理。深い底に可憐な花を見るような印象深いこの一皿は、イノベーティブイタリアンで多くの人を魅了する「FARO」のエグゼクティブシェフ・能田(のうだ)耕太郎さんによるガストロノミーヴィーガンコースの1品「じゃがいものスパゲッティ」です。
その名の通り、このスパゲッティの正体は小麦粉ではなく、じゃがいも。菜麺器から切り出したじゃがいもはスパゲッティのように細長く、食べやすいようフォークでくるくる巻ける、ほどよい長さ。じゃがいもをスパゲッティに見立てて調理しているとはいえ、つるりとなめらかな口あたりはまるでスパゲッティそのものです。
これは茹でているのかと思いきや、そうではなく、生のじゃがいもの状態からソテーしているとのこと。コシがあり、歯ごたえはシャキシャキとしてじゃがいもらしさも発揮されています。
その上には、短く切り出し、米油でカリッと揚げたじゃがいもがトッピング。
シャキシャキ感とカリカリ感、2つの異なるじゃがいもの食感を同時に楽しめる、なんとも新感覚なスパゲッティの世界を体感できます。
植物性の食材のみでつくられたヴィーガン料理ですが、絡むソースは軽やかなのに奥行きがあり、コクとパンチもしっかり。リコリス(甘草)やビーツのパウダーのほのかな甘みや、散らした花穂じそが香る、どこかオリエンタルな風味も漂わせます。食べ進めるほどに虜になってしまうこの味わいは、一体なんなのでしょうか?
能田シェフにうかがうと、「調理・調味にはカカオバターとココナッツとピスタチオペーストで作ったヴィーガンバター、そしてセロリと麹と塩を長期熟成させた自家製のセロリ醤油を使っています」とのこと。
ヴィーガンバターにセロリ醤油。バターに醤油といえば、私たちもよく知る黄金の組み合わせ。でもこれは、その想像をはるかに越えた味の豊かさへの驚きと、能田シェフの考えがうかがえる新しい食体験でもありました。