定食のように食べるサラダを食文化の一つに
~サラダボウル専門店「WithGreen」創業者に聞く~
~サラダボウル専門店「WithGreen」創業者に聞く~
2016年、神楽坂に第1号となるサラダボウル専門店「WithGreen」をオープンさせた武文智洋さんと弟の謙太さん。その後、東京を中心に神奈川、大阪、京都の都心部へ展開し、2022年8月時点で16店舗、着実に広がりつつあります。いま最も人気と勢いのある「WithGreen」の共同創業者“サラダ兄弟” の兄である智洋さんに、サラダボウルの魅力と創業の想いについてお話を伺いました。
日本の四季に根ざした、健康的なサラダボウルの文化をつくりたい
———智洋さんは30歳を期に証券会社を退職し、異業種である飲食業界で、サラダボウルの事業を始められました。そのきっかけを教えてください。
武文智洋さん:証券マン時代、2012年から2年間、ニューヨーク支店に勤務していたときのことです。同僚の半数がランチにサラダボウルを食べていたんです。日本ではサラダというと副菜のイメージが強いと思いますが、そのとき食べていたサラダは野菜だけではなく肉や穀物も入っていて、一つでお腹が十分満たされる、まさに定食を食べているような感覚でした。
健康のために食べる方もいれば、宗教上の理由で食べる方、ヴィーガンの方など、いろいろなライフスタイルの方にとってもサラダボウルは選択肢の一つとして定着しています。そうしたサラダをメインに食べる文化がアメリカには根付いていて、僕も週に2回ほどランチでサラダボウルを食べることがいつのまにか習慣化していましたね。
でも、その当時はまさかサラダボウルで事業を起こそうとは思ってもいませんでした。もともと起業を視野にいれていましたので、30歳のときに退職。2年間かけて、どんな事業をしようかと考えているときに、このサラダボウルのことを思い出して。いろいろ考え、この事業ならやる価値があると思いました。
当時、弟が食品メーカーに勤めていまして、彼なら食の業界事情にも通じ、知識やアイデア、運営面などにおいても即戦力になると思い、声をかけ、2016年、一緒に「WithGreen」を創業しました。
———そのような経緯から “サラダ兄弟” が誕生したわけですね。日本ではちょうど2016年前後に、複数のサラダボウル専門店がオープンし、サラダボウル、チョップドサラダが流行し始めた時期でもあります。日本人がサラダボウルを食べるメリットについてはどのように考えていますか?
武文智洋さん:日本人は昔から野菜をしっかり食べる民族です。煮たり、焼いたり、主に調理を通して食べることが主流でした。火入れすることで野菜の量もたっぷり摂れますよね。一方で、サラダは主に生野菜を使います。火入れで減ってしまうビタミンやミネラルなどの栄養分を摂取できるというメリットはありますね。
それから一つのサラダボウルには野菜だけではなく肉や穀物などさまざまな具材も入ります。まるで定食を食べたときのような満足感を得られるのです。ミネラルや食物繊維が不足しがちな炭水化物系が多い日本のランチ事情に、血糖値スパイク(食後の血糖値が急上昇、急降下する状態)がおこりにくく、午後のパフォーマンスに影響しにくい食事という新たな選択肢を提供できるのではないかとも思っています。
また、アメリカのサラダ文化をそのまま日本に持ってくるのではなく、日本のサラダ文化をつくっていきたいと考えています。日本の生産者を大事にしたく、食材は台風などの特殊な場合を除いて、国産100%にこだわっています。だから輸入に頼っているアボカドは「WithGreen」では使っていないんですよ。アボカドを入れなくても、トマトやサツマイモ、大根など日本で採れるもので十分おいしいサラダをつくることができます。日本の四季に根ざした “日本のサラダボウル専門店” をつくりたいというのが僕らのビジョンです。
定食のように食べられるサラダボウルを選択肢の一つに
———1号店である神楽坂店は以前から個人的に利用していまして、「ハーブチキンと彩り野菜のサラダ」が特にお気に入りでリピートしています。たくさんの種類の野菜のほかにゴロゴロとカットされたハーブチキンの食べ応えも加わって、飽きさせないおいしさがありますね。ほかにも「WithGreen」のサラダボウルのおいしさの秘密について、また工夫されている点などを教えていただけますか?
武文智洋さん:実際にお客様100人にアンケートをして得た答えですけれど、シンプルに「おいしい」という回答が一番多かったですね。おいしいと感じていただけなければリピートにも繋がりませんので、これはとても大事な点だと思っています。
サラダボウルというと、単純にカットした野菜を混ぜているように思われがちですが、実は食材の切り方や、どういう食感ならバランスがよいのか、キュウリの大きさ、リーフの硬さ、トマトの品種選びなどについて、共同創業者の弟、武文謙太がずっと考え試行錯誤し、研究を積み重ねました。
例えば、トマトはゼリー状の部分が少なく、外の厚みが多いほうがサラダに向いているんですね。そうした一つひとつの積み重ねの結果、食べたときに「おいしい」と感じていただいているのかなと思います。SNSで「サラダの可能性が広がりました」というコメントをいただくこともありますね。
———提供の際に、ドレッシングは別にするか、それとも和えてから提供するか、選択できますよね。私はテイクアウトの際にもスタッフさんにその場で和えていただいています。リーフレタスの端までまんべんなく馴染ませてくれて、どこから食べてもおいしい。その小さな心遣いがうれしかったりします。
武文智洋さん:実は、あらかじめ和えるとドレッシングの量も少なくすみます。上からかけると、和えて提供するときの1.5倍の量を使ってしまうんですよ。
———ええっ!? そうなんですね。しっかり和えると味が均一になるし、ドレッシングも少なくてすむし、かつ塩分を気にされている方にも、いいことだらけですね。
———「WithGreen」の人気メニューTOP3を教えてください。
武文智洋さん:一番人気はやはり「ハーブチキンと彩り野菜のサラダ」です。ハーブが効いた国産鶏むね肉とトマト、コーン、オニオン、キュウリ、ミックスリーフの構成です。ドレッシングは13種類から選べますが、こちらにはハニーミルクドレッシングをおすすめしています。1食で265.4キロカロリーあり、たんぱく質は19.5グラム、脂質は14.5グラム、糖質は9.7グラムで、見ての通り高たんぱく、低カロリーなのも人気の理由かと思います。
人気No.2は、月ごとに替わるシーズナルメニューです。例えば6月は「スパイシーチリマヨチキンとパクチーのサラダ」、7月は「BBQチキンと夏野菜たっぷりサラダ」「国産鶏ひき肉のガパオライスのサラダ」などを提供していました。おもしろいメニューを期間限定で食べられるところが順位を押し上げている一因かなと思いますね。
人気No.3はちょっと意外かもしれませんが「砂肝ともやしナムルのサラダ」です。一度食べたらハマる方が多く、こちらもリピーターが多いんです。実は食事としてだけでなく、お酒のおつまみにもなるんですよ。砂肝には鉄分や亜鉛などが多く含まれているので、女性の方にもおすすめです。
———それを聞いたら俄然食べてみたくなりました。次はおつまみサラダとしてぜひ試そうと思います。
まんぷくベジは国が掲げる1日350グラム以上の野菜を摂りましょうという目標に取り組んでいるのですが、1食の食事にこうしたサラダボウルを選択すれば、無理なく目標に近づけます。なおかつヘルシーでおいしい。うれしいことばかりですね。
武文智洋さん:「WithGreen」の定番メニューの中に、1日に必要な野菜350グラムをしっかり摂取できる「1日分のまるごとサラダ」があります。これ1つで350グラムの野菜を気軽に摂れますし、さまざまな食感の野菜が詰まって彩りも豊か。また、お好みの食材をトッピングしてカスタマイズすることもできます。例えばサツマイモやリンゴ、豆腐など、異なる食感や味わいをプラスすることで、さらに楽しめますよ。
野菜を摂取することは、将来の健康への投資
———ちなみに、日本人は平均して1日約70グラムの野菜が不足しているというデータがあります(「令和元年 国民健康・栄養調査報告」より)。そうした一般的な国民に向けて何かアドバイスをいただけますか?
武文智洋さん:食事を自分の健康や未来への投資というふうに考えてみてはいかがでしょうか。野菜は基本的に値段が高いですよね。でも、風邪をひきにくい体に調えたり、健康的になるのであれば、長期的にみればその方がお得かもしれません。もうそれは将来の自分の体、健康への投資そのものだと思いますね。
———日本ではまだまだ副菜というイメージが強いサラダですが、このサラダボウルが親子丼や生姜焼き定食などと並ぶような感覚で食の選択肢として浸透すれば、健康面や食文化面において、これは画期的な出来事になるかもしれませんね。
武文智洋さん:はい。そのために「WithGreen」があるのかなと。創業時からの想いは「健康的なサラダボウルの文化をつくりたい」。それは一店舗では実現できません。単身世帯が多い都市圏を中心に、まずは5年後に50店舗、そして100店舗を目指して、サラダボウルの文化を日本の都市圏では当たり前にしていく。それも僕らの明確なビジョンです。
そして実際に僕も経験していますが、サラダは習慣化するんですよね。サラダはライフスタイルに根付くものだと思っていますし、また僕らはそのライフスタイルを支える存在になれればいいなと邁進しているところです。
武文智洋(たけふみ・ともひろ)さん プロフィール
1983年、岡山県生まれ。 慶應義塾大学大学院機械工学科卒業。2009年4月に野村證券入社。東京で日本株セールストレーダーとして勤務後、ニューヨークに転勤し、ウォール街で機関投資家営業として2年間勤務。2013年、30歳で退職。退職後は200日30カ国の世界一周を行いながら、新規事業の計画を立てる。2016年1月に、株式会社WithGreenを兄弟で創業。好きな野菜は玉ねぎ。好きな言葉は「本気の失敗には価値がある」(漫画『宇宙兄弟』のセリフより)。
WRITER
敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。
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