【野菜を愛する、小さなカフェ便り#5】
ヴィーガンシェフ・料理研究家として毎日キッチンに立つ篠宮美穂さん。2011年からハワイのヴィーガンカフェで働きはじめ、そこでさまざまな人と出会い、そして大自然の中での暮らしを体験していきます。今回のお話は、美穂さんがトレッキングを楽しむなかで遭遇した、ハワイの海洋生物や海鳥たちのこと。その愛らしい姿が人間に教えてくれることは、どんなことでしょうか。
お弁当におかずを詰め込んで、大自然の中のトレッキングへ!
私がハワイで最も好きな季節は、春。雷雨の季節が終わると、太陽の光がより明るく感じられ、穏やかであたたかな気候が戻ってくる。海の水はまだ冷たいが、太陽の下で泳ぐのは気持ちよい。
夏の強い日差しがやってくる前に、お弁当やトレイルミックス(ナッツやチョコレートチップがミックスされているもの)をリュックに詰め込んで、ハイキングやトレッキングに出かけるのも楽しい。
そこで今回は、私のお気に入りのハイキングコースをご紹介したい。オアフ島には数多くのハイキングコースがある。ローカルの人たちもハイキングが大好きで、犬の散歩や、タイムを測りながら山道を走って行く人もよく見かける。その点、私はマイペースにのんびりと景色を楽しみながら登るのが好きである。片道2時間以上のコースは、途中の植物や土や岩の色、風の音や鳥の鳴き声、肌で感じる空気の温度や湿度などの違いが楽しめる。
ダイヤモンドヘッドやココヘッド、ハナウマ湾を見ながらのハイキングができるのは「Kuliouou Ridge Trail」 (クリオウオウリッジトレイル) 。山頂からはカイルア方面が一望でき、爽やかに吹く風が汗を拭ってくれる。
「Mariner’s Ridge Trail 」(マリナーズリッジトレイル)は、クリオウオウリッジトレイルより少し短めのショートコースだが、同様に手付かずの自然と眺望が楽しめる。
そして、ハナウマ湾を眼下に臨みながら湾の淵を登ったり降ったりの「Hanauma bay Ridge Trail」 (ハナウマベイリッジトレイル) は、乾燥した大地と地平線まで続く海が遠くまで一望できる。ここは木陰などがなく太陽が照りつけるトレイルだ。
オリンパス山まで目指す上級者向けのコースは「Mt.Olympus Trail (マウントオリンパストレイル)」。途中に数カ所休憩スポットがあり、きついコースの合間に見晴らしのよいスポットで一息入れることができる。そして、トレイルはロープで岩場を登ったり降りたり、かなり狭い尾根を歩いて行くので危険も伴うが、登頂したときの満足感は格別だ。
そして春先に必ず行きたい場所が、オアフ最西端にある「Ka'ena Point Trail」 (カエナポイントトレイル)である。
「Ka'ena Point Trail」に行くには、オアフ島の西側から行くルートと、ノースショアの方から行くルートがある。車が通れる道路はないので、駐車場に車を停めて、徒歩で岬を目指す。平坦なトレッキングロードとはいえ、日陰のない道を片道1~2時間ほど、ひたすら歩かなければならない。飲み水とスナックは必須のトレッキングである。
私はノースショア側から歩いて行くルートが好きだ。右手には荒々しい波に削られた岩、その後ろに見える真っ青な海、白い波しぶきが美しく、左手には高くそびえる緑の山々。遮るものがないダイナミックな視界に、シャッターを押さずにはいられない。
ラッキーな日は、ジャンプをするイルカの群れが遠くに見えることがある。それを見逃さないために、私はいつも海から目を離せずに歩き続ける。そしてひたすら歩き続けて、まだたどり着かないのかと思いはじめた頃に、ようやくハワイ州自然保護区のフェンスに到着する。
ここはアルバトロス(コアホウドリ)やハワイアンモンクシール(アザラシ)などの絶滅危惧種の生息地だ。そのため、高く頑丈なフェンスがたてられ、マングースや犬、ネズミなどの被害からそれらの生き物を守っている。
私が春先にこの場所を訪れたい理由は2つある。ひとつは、このアルバトロスが巣作りをして、子どもを産む様子が見られるのだ。そしてもうひとつは、冬から春にかけて、遠くアラスカから出産と育児のためにやってくる、ザトウクジラを見ることができるから。
フェンスに近づくと、広げると2メートルにもなる大きな黒い翼を持ったアルバトロスが悠々と空を飛んでおり、なかに入ると海鳥たちのコロニー(集団)がある。
春は求愛の季節だ。オスとメスのアルバトロスが向かい合い、首を上下に動かして大きな声で鳴きながら、くちばしを鳴らしている。この求愛のダンスが面白くて、いつも思わず笑ってしまう。頭を低くしてコロニーを観察すると、茂った緑の木々の下にある巣穴の中に、まだ産毛の抜け切らないグレーの雛がじっと座っている姿も見られる。
そして、この季節のお楽しみは、なんといってもクジラ観察である。カエナポイントからは、遠く海の彼方にクジラを見ることができる。ザトウクジラのブロウ(潮吹き)は4〜6メートルもあるので、遠いところからでも目視できるのだ。クジラのいる場所がわかったら、その方向を見続けていると、また近くでもブロウ。時にはジャンプする姿だって見られることもある。夕焼け色に空が染まり、地平線にクジラが見えると、この大自然の恵みに心が満たされるのである。
大自然の中で暮らして考えはじめた、環境問題のこと
近年、この海洋生物や海鳥の個体数が激減しているというのは周知の事実である。原因はプラスチックゴミ、油の流出、工業汚染などによる海洋汚染と、乱獲、開発、外来種問題などによる気候変動、そして環境の変化によるものだ。
太古の昔から、地球の気候変動は起こり得るもの。けれど、それに拍車をかけて悪化させるのは、私たち人間の生活活動によるものである。地球の70%は海で、その生態系が崩れるということは当然、陸地に住む私たちにも多大な影響があるのだ。すべてがつながっている。そして自然の力だけで元に戻るのが難しいとき、それに手助けできるのは、私たち一人一人の心掛けと行動だと思う。
では、実際に私たちができることとは何だろう?
たとえば、スーパーで買い物をするときに、エコバッグを持っていくのは常識になりつつある。ならば、ワンステップアップ!できるだけプラスチックを避けるため、ラッピングされてないフルーツや野菜を買う。使用頻度が高いものは量り売りや大きな容量で買い、家に帰ってほかの容器などに詰め替えて使う。
また、近所の小売店に足を運んで、豆腐や味噌などパッケージされていないものを発見するのも楽しいものだ。スーパーでは、野菜を入れるためのビニール袋を取らない忍耐力を養ってみる!(笑)
さらに、ストローは使用しない、もしくはマイストローやマイカトラリー、マイカップを持参する。子どもたちと一緒に、どれだけプラスチックやゴミを減らせるかチャレンジしてみるのもいいかもしれない。こう挙げてみると、アイデアは無限大である。
これらのゴミ問題は、現在の日本では難しい課題だ。もしかしたら、このコラムを読んでトライしてみたいと思っても、完璧にできないと思い悩んでしまうかもしれない。私も日本に帰国して以来、毎日プラスチックの山の中でもがいている気分である。でもだからと言って、諦めたくはない。日々、自分に合った形で楽しみながら、正しい知識を学びながら、そして何よりも、今日は私に何ができるだろうかとチャレンジを継続していくことこそが大事なのだと思う。
<プロフィール>
篠宮 美穂(しのみや みほ)
ヴィーガンシェフ、ヴィーガン料理研究家、「MNEMONIC BEVERAGES」ディレクター。カフェを12年経営。渡米してヴィーガンカフェで働きながら、ヴィーガン料理、概念について学ぶ。現在は日本で、地球にやさしくユニークなプロジェクトを立ち上げ中。趣味は自家製酵母のパン作りと、ヴィーガニックコンポストの土づくり。
美穂さん(@rabbitbook)のInstagramページはこちら。