ハワイ流のワイルド家庭菜園が、
野菜を育てる楽しさを教えてくれた!

野菜を愛する、小さなカフェ便り#6

ヴィーガンシェフ・料理研究家として毎日キッチンに立つ篠宮美穂さん。2011年からハワイのヴィーガンカフェで働きはじめ、そこでさまざまな人と出会い、そして大自然の中での暮らしを体験していきます。今回のお話は、美穂さんがハワイの地で挑戦しはじめた家庭菜園について。リサイクル品をプランターに活用するアイデアや、日本では知られていない珍しい野菜も登場します。

ゴミだって無駄にはしない!“Aloha”な気持ちで野菜作り
 

ハワイに住んで一年を過ぎた頃、庭のある家に引っ越すことになった。そこで「GROW!!」と命名したプロジェクトの名のもと、念願の家庭菜園をはじめることにした。
 

ハーブのポットの写真
引っ越し前のアパートでは、普段からよく料理に使うミントやローズマリー、タイム、バジルなどのハーブを植えていた。


家のオーナーは芝刈りが面倒という理由で、庭の大部分をコンクリートで固めてしまっていた。土の部分にはすでに、ハイビスカスやアデニウム、レモンの木が植えられていたので、地植えをするスペースは限りがある……。というわけで、まずはプランター探しからはじめてみる。
 

ハイビスカスレモンソルトの写真
庭のハイビスカスとレモンを乾燥させて粉砕し、ハイビスカスレモンソルトを作ることも。
 


ハワイではリサイクル品を利用する人も多く、週末になるといたるところでガレージセールが行われている。それどころか、粗大ゴミの日は、まるで宝物探しのようなのだ。道端には、まだまだ使用できそうな家具などがゴミとして出されていて、そういったものを好きに持ち帰ってくるのも普通であった。

 

そういえば、私がニューヨークに住んでいた頃に借りていたアパートは、ほとんどの家具が、オーナーのお姉さんが粗大ゴミの日に拾ってきたものだった。なかには70年代のデザイナー家具もあったりして、さすがニューヨークといった感じだ。アンティークっぽい木製の脚立が廊下に置かれていて、それがなかなかよい味を出していた。

 

話が逸れてしまったが、できるだけ新しいものを買いたくはなかったので、ジュースやヨーグルトのパッケージを再利用したり、庭のあちらこちらに放置されていたポットを拝借したり……。さらに、棺桶のように巨大な木箱とたんすを道で拾い、貨物に使われている木製パレットを情報サイトで見つけてもらいに行ったり、使えそうな資材を探しに「Re-use Hawaii(リユーズハワイ)」という廃材屋さんに行ったりもした。
 

引き出しをプランター代わりにしている写真
捨てられていた棚をリメイクして作ったプランター。
リユーズのお店の写真
リユーズのお店の写真2
カカアコにある「Re-use Hawaii」。廃材や中古資材、中古品の家具などが揃う巨大な倉庫。中古品ならではのおもしろいものが発見できるかも。

 

 

太陽の恵みでぐんぐん育つ、ハワイのカラフル野菜

 

次は土作り。これも情報サイトで、家の近所で不要な庭の土をくれる人を見つけたので、ピックアップしてきた。ただし、土には石がたくさん入っていて、ふるいにかけて取り除く作業がとても大変だったのを覚えている。タダほど安いものはないとは、このことである。あとは、ホームセンターでオーガニックの土やコンポストの袋を購入し、すべてミックスして使ったのだった。

 

友人が当時、ミミズコンポストというコンポストを作っていて、バケツを一つもらったのだが、ハワイはなんといっても常夏。バケツを外に置いておくだけで、たくさんの虫が寄ってくる。しまいには蓋を開けるのも怖くなり、庭の隅にバケツの中身をひっくり返して、そこがコンポストの定位置になったのであった。料理して出た野菜やフルーツの屑などをその山に捨てて、まわりの枯葉や雑草、少量の土をかけて放置しておく。すると、微生物や山の中にすんでいるはずのミミズたちがゴミを分解してくれて、さらに時間がたつとフワッとした土ができあがり、それをプランターの土に混ぜるというサイクルだった。

 

さて、最後は種である。ハワイで食料品売り場に行くと、必ず目にするのが、パッケージやプライスカードに書かれた「non-GMO」という文字。「non-GMO」とは、GMO(Genetically modified organism)ではない、つまり「遺伝子組み換え作物ではない」という意味である。至るところでお目にかかるので、それだけ人々の関心が高いということだろう。当然、種を選ぶ際にも、それがどんな種であるかは気になるところ。せっかく自分で野菜を作るのだから、安全なものを作りたいと思う。結果、遺伝子組み換えをされていない種子、固定種や在来種、オーガニックの種子を選んで育てることにした。ハワイでおなじみのパパイヤも遺伝子組み換えが最も行われている作物の一つである。お店でフルーツを購入するときは必ず、遺伝子組み換えでないかチェックしてから買う。ハワイ大学の研究室で、遺伝子組み換えされていない種を分けてくれるということを聞き、もらいに行ったりもした。

 

ハワイは一年を通して気温が安定しているので、家庭菜園程度の野菜作りであれば、あまり種蒔きの時期を気にする必要はなかった。私たちが選んだ種は、スイスチャード(フダンソウ)やケール、マノアレタス(リーフレタス)、コラードグリーン、きゅうり、トマト、オクラ、ヒカマ、にんじん、ビーツ、インゲン、すいか、パパイヤ、ハバネロ、とうがらし、パクチー、ミント、そのほかのハーブなど盛りだくさん。アロエ、サボテンなどの多肉植物、ニーム、いちご、しそなどは、苗をもらったり、買ってきたりした。なかでも、しそはスーパーで買うと高級食材。それならば自分で育てよう!と手に入れたのに、一晩で巨大ナメクジに食べられて終了したのだった……。


※コラードグリーン……キャベツやブロッコリーと同じアブラナ科で、葉が丸まらない葉野菜。
※ヒカマ……メキシコ原産のマメ科の一種で、クズ(葛)に似ている。
※ニーム……おもにインドなどで古くから自生している樹木。

 

プランター、土、種の準備ができて、後は「GROW‼︎」と祈りながら、種を土に埋めていく。気温が高いので発芽するのも驚くほど早く、2〜3日位で芽が出てきて、ハワイの太陽を浴びながらグングンと背丈を伸ばしていく。出てきたばかりの芽には、その小さな葉や、か細い茎を労るように、水を優しくスプレー。大きくなってきたら、朝夕2回はしっかり水分を吸わせるように、根元に水をまいた。実ができてきたら、鳥と自分とどちらがタイミングよく実を食べることができるのか、競争である。油断すると、朝起きた時には食べごろのトマトがなくなっていて、悔しい思いをするのだった。植物の育つ様子を見ながら、「この植物は日陰の方が好きかな」「こっちの植物は日なたが好きだな」と、頻繁に移動させたりして、過保護な家庭菜園を楽しんでいた。
 

色とりどりで信号機のようなミニトマト
信号みたいなミニトマト。

 

いろいろな野菜の写真
一番下の、カブのような野菜がヒカマ。シャキシャキとした歯応えでほんのり甘く、クセもなくてサラダなどにするとおいしい。

 

小さな野菜のポット
大量のペッパー類も育てていた。

 

青々と育つ家庭菜園の野菜たち
定位置に落ち着いて、しっかりと元気に育つ葉野菜軍団。

 

無機質だったコンクリートの庭が、やがて緑でいっぱいになっていった。自分たちで育てた新鮮な野菜を収穫して食べたり、ハーブティーを楽しんだりと、植物から日々たくさんのパワーをもらったのだ。


 

野菜で作ったジュース
アロエ、ウィートグラス(小麦若葉)、セロリ、しょうが、りんごジュースで作ったグリーンスムージー。後味は、意外にもさっぱりでリフレッシュ。
野菜を巻いたラップサンド
にんじん、ココナッツ、ハバネロで作った特製チリソースはとてもスパイシー!庭のグリーンをふんだんに使ったラップサンドとの相性バッチリ。
紫キャベツで包んだサラダ
ヒカマとビーツを使ったサラダを紫キャベツのお皿に乗せて。

 

日本に帰国して、昨年の冬から家庭菜園をはじめたのだが、ハワイとは違って、本当にゆっくりと植物が育つので日々忍耐。それと同時に、毎日少しずつ、どんな風に成長していくのか観察するのが楽しみである。そして、移り変わる季節の、その時々に咲く可憐な花たちのなんと可愛らしいことか。語り出したら切りが無さそうなので、今日はこのへんでおしまいとする。


 

  <プロフィール>

 みほさんの画像

篠宮 美穂(しのみや みほ)

 ヴィーガンシェフ、ヴィーガン料理研究家、「MNEMONIC BEVERAGES」ディレクター。カフェを12年経営。渡米してヴィーガンカフェで働きながら、ヴィーガン料理、概念について学ぶ。現在は日本で、地球にやさしくユニークなプロジェクトを立ち上げ中。趣味は自家製酵母のパン作りと、ヴィーガニックコンポストの土づくり。

美穂さん(@rabbitbook)のInstagramページはこちら

 


 
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