野菜を愛する、小さなカフェ便り#10
ヴィーガンシェフ・料理研究家として毎日キッチンに立つ篠宮美穂さん。2011年からハワイのカフェで働きはじめ、豊かな自然と食、そして素敵な人々と出会いました。2019年に夫・ジャックさんとともに帰国し、日本でのヴィーガン生活がはじまります。今回は、ご夫婦のライフワークとなっている自家製ヴィーガンコンポスト作りと、小さな畑でのお話です。
野菜くずからできるコンポストは
私たちが目指す、畑作りの第一歩
私がハワイに住んでいたころ、ずっとトライしてみたかったことのひとつ。それは畑である。ハワイの大自然を身近に感じ、エネルギーあふれるカラフルなオーガニック野菜やフルーツに囲まれた生活を送り、ローカルの生産者の人たちと話す機会が増えたことで、次第に土に触れたいと思うようになった。
そして、日本に帰国してさっそくはじめたのが、畑探しである。まずはご近所さんに、徒歩圏内で畑を貸してくれる方が居ないか相談してみたり、夫と2人で近所の畑を自転車で巡ってみたりしたのだった。
畑が見つかるまでの間も、いてもたってもいられなくなり、家の脇で自家製コンポストをはじめた。コンポストとは、土の中に存在する微生物の力を借りて、枯れ葉や生ごみなどの有機物を分解・発酵させて作る堆肥のこと。コンポストを使うと、土の水はけが改善されたり、植物が土から必要な養分を取りこみやすいバランスのとれた環境を作ることができる。さらには、植物の病害を減らす効果も。農薬や化学肥料を使わなければ、土や水が汚染されず、植物がもつ本来の力のみで育つので、私たちはエネルギーに満ちた栄養価の高い植物を摂取できるのだ。
我が家が作っているのは、調理時に出る野菜やフルーツのくずのみを土に混ぜ、発酵させて作る「ヴィーガニックコンポスト」。ここには、動物性のものはまったく入らない。野菜くずのみとはいえ、毎日結構な量のくずが出るのだ。自宅でコンポストを作ると、家庭菜園やガーデニングの土づくりに使用することができ、さらに家庭ごみの量も減る。それが二酸化炭素の削減につながるのだから、まさに一石二鳥である。そして、1シーズンが終わるごとに繰り返して土を使えるサイクルを作れば、新しい土をわざわざ買う必要がなくなるのだ。
はじめに、家に置いてあったプランターや鉢などを使ってコンポストを試してみた。家庭のような限られたスペースでできる、一番簡単なコンポストだが、水分調整などが難しく上手くいかなかった。次に、野菜が送られてくる段ボールが目につき、段ボールコンポストを試してみた。厚みのある紙が適度に水分を調整してくれるので、これは発酵がとてもスムーズに進んだ。段ボールの底の部分を補強したり、農家さんが使うようなかごを箱の下に設置するなどして、土と野菜から出る水分の重みで底が抜けないようにしておけば、かなり長い間ひとつの箱を使用することができる。見た目は良くないが、コンポストはお金をかけずとも、自分のまわりにあるものを工夫することで簡単にはじめることができるのである。
毎日ノートに記録を取りながら、試行錯誤の日々。どんな種類の野菜やフルーツを入れたか、ゴミをどのくらい細かくするか、どのくらいの分量でゴミを混ぜると分解が早いか、土と野菜くずのほかにどんな資材を入れると分解や発酵が上手く進むかなど……。実際に取り組んでみて、自分のペースでコントロールできるようになるまで約1年。問題が発生するたびに、人々がどのように対処しているかを調べ、いろいろと試してみた。すべてはいかに微生物が働ける環境を作り出せるか、季節や気温、湿度などによっても左右されるのだ。
毎日愛情をかけて土を混ぜ、発酵を促し、それを熟成させたコンポストがついに完成したときに、ふかふかの土を触ることのできる幸せ……。ぜひ、みなさんにも味わってもらいたいと思うのである。
後編に続きます。
<プロフィール>
篠宮 美穂(しのみや みほ)
ヴィーガンシェフ、ヴィーガン料理研究家、「MNEMONIC BEVERAGES」ディレクター。カフェを12年経営。渡米してヴィーガンカフェで働きながら、ヴィーガン料理、概念について学ぶ。現在は日本で、地球にやさしくユニークなプロジェクトを立ち上げ中。趣味は自家製酵母のパン作りと、ヴィーガニックコンポストの土づくり。
美穂さん(@rabbitbook)のInstagramページはこちら。