老舗ブランドが手がける新サステナブルカフェとは?
「アリサンパーク」ディレクター、ケイさんに聞く
「アリサンパーク」ディレクター、ケイさんに聞く
ピーナッツバターやオートミール、調味料など、オーガニック・ベジタリアン食品のブランド「アリサン」。2022年7月、東京・代々木公園のそばにカフェ&ショップ「アリサンパーク」をオープンしました。
写真は左からジェイ、ジャック、ケイ、フェイ。仲のよい家族が手がけるアリサンとはどんな会社なのか、兄のジェイさんと共に「アリサンパーク」の運営を担うケイさんにお話をうかがいました。
創業の始まりは茶箱で持ち帰った朝ごはん
———アリサン創業の経緯を教えてください。
ケイさん:東京から車で1時間半ほどの高麗に本社とオーガニック・ベジタリアン・サステナブルをテーマにした「アリサンカフェ」(2001年オープン)があるのですが、そこはすぐそばに川が流れ、山も近く、遠方からハイキングにくるような自然に囲まれたところ。私の両親ジャックとフェイはこの場所が気に入り、1988年に埼玉でアリサンを立ち上げました。
アリサンは母フェイの故郷、台湾の高級烏龍茶の産地としても知られる「阿里山」に由来しています。ジャックがいろんな国を巡っていた旅の途中、台湾でフェイと出会い、その後、日本に移住することになるのですが、友人のいた秩父で骨董品の修理と販売を手がけることになったのです。
骨董品を大きな茶箱につめてジャックの母国アメリカで販売した帰り、自分が欲しいオーガニックのピーナッツバターやグラノーラを空になった茶箱に入れて持ち帰ったことから始まりました。異国の地で、日本人がおいしいお米を食べたいと思う気持ちと同じですね。持ち帰ったものを日本在住の仲間と分け合ううちに次第にネットワークが広がり、輸入卸販売の会社設立に至りました。
———アリサンパーク1階のショップには、アリサンブランドの商品をはじめ200アイテムほど陳列されていますね。ナッツやドライフルーツ、調味料、紅茶、ハーブやスパイスなどさまざまありますが、売れ筋を教えていただけますか?
ケイさん:やはり何といっても一番人気はピーナッツバターです。ジャックが一番最初に輸入卸販売を手がけた商品で、アリサンの始まりを象徴するアイテムでもあります。原材料は有機ピーナッツのみ。乳化剤など添加物は使用していないので口当たりのなめらかさには欠けますが、ピーナッツ本来の濃厚な味わいをストレートに感じていただけると思います。くだいたピーナッツがたっぷり入ったクランチタイプが特に人気です!
ジャックは子どもの頃からピーナッツバターが大好きで、小学生から中学生までほぼ毎日ピーナッツバタートーストを作ってもらい、それが彼のお弁当でした。私も小学生時代、よくお弁当に作ってもらいましたね。
———私もアリサンのピーナッツバタークランチは大好きでトーストにぬって食べています。ほかにおすすめの食べ方は?
ケイさん:バナナや豆乳と一緒に加えてスムージーにしたり、アイスクリームのトッピングやピーナッツバタークッキーなど焼き菓子にも使いますよ。
カフェの朝ごはん(7時30分〜10時30分)での一番人気も、このピーナッツバタークランチを使った「ピーナッツバタートースト」なんです。アリサンが輸入しているパンにピーナッツバターをぬり、バナナをのせて、ココナッツフレークとシナモンパウダーをかけています。これはぜひカフェで食べていただきたい一品ですね。
それから、グラノーラも人気です。アメリカでは朝食の定番で、日本人にとってのご飯と納豆を食べるような感覚。ショップでは、ジャックのママのお気に入りのレシピで作った「ママのグラノラ」と、それにドライフルーツとナッツをたっぷり加えてアレンジした「ジャックのグラノラ」があります。
ココナッツオイルを混ぜ合わせて香ばしく焼いたオーツ麦をベースに、各家庭によっていろいろなレシピがあり、ナッツやフルーツなどトッピングも変えられるので、自分好みにアレンジしやすいのが特徴です。
ショップでオーツ麦やナッツ、ドライフルーツを購入して、自宅でオリジナルレシピのグラノーラを楽しんでいるお客さまもたくさんいらっしゃいますよ。
———ちなみに、ケイさんはどういうグラノーラの食べ方がお気に入りですか?
ケイさん:ラズベリーやブルーベリーなどフレッシュなフルーツをトッピングし、ココナッツフレークとはちみつ、ミルクをかけていただきます。オートミールのときにはソイミルクを使いますが、グラノーラにはミルクをかけて食べるのが私好み。
カフェの朝食メニューにもグラノーラがあり、フレッシュフルーツをトッピングして、ココナッツヨーグルトで提供しています。ミネラルやたんぱく質、食物繊維が豊富なので、ヘルシーな朝食をとりたいときにおすすめです。
アリサンが最初に輸入したアイテムは、ピーナッツバターやオーツ麦、グラノーラ、ナッツやドライフルーツなど、朝ごはんの食材といっても過言ではないですね。だから、カフェでは朝ごはんのメニューにも力を入れています。
代々木公園を散歩した後に、カフェでヘルシーな朝食をとり、健康的な1日をスタートするのもいいですよ!
ストイックになるのではなく、楽しく! ケイさんのプラントベースなライフスタイル
———今でこそSDGsに取り組むことが当たり前の世の中になりつつありますが、アリサンは1988年創業当初からすでにオーガニック・ベジタリアン・サステナブルといった選択肢を提供し続けていますね。
ケイさん:オーガニック・ベジタリアン・サステナブルという言葉が浸透する以前から、ジャックとフェイにとってそれは当たり前の考え方でした。カラダにも地球にもいいものでなければいけないという考えがベースにあります。
会社としても取り組んでいることがあります。食材や食品はロスにならないようフードバンクに寄付しますし、会社では輸入する際のオートミールの麻袋をリメイクしてゴミ袋として使っています。各店舗で出た生ゴミはコンポストで堆肥にし、畑でにんにくを育てて、それをカフェで使っています。それは、SDGsという国連が掲げる目標だからではなく、当たり前のことだからやっているだけ。
オーガニック食品についても、ここへきて世の中のニーズが高まってきたように思います。30〜40年前はオーガニック食品を扱う店は専門店などごく一部だけでした。この3〜4年でスーパーでもオーガニックの豆乳やオリーブオイルなどを見かけるようになりましたしね。消費者の意識も変わりつつあるように思います。
———アリサンパークではベジタリアン向けの食材やカフェメニューが提供されていますが、ケイさんご家族のライフスタイルとも共通しているところはありますか?
ケイさん:私も兄のジェイもベジタリアンではありませんが、ほぼプラントベースのライフスタイルを送っています。外食では肉類も食べますよ。ジャックとフェイからは、自分の選択や生き方が、自分や地球にどういうインパクトを及ぼすかということを小さいころから教わってきました。ただ、最終的にベジタリアンになるかどうかは自分の判断だよ、と。そういうオプションを与えてくれるところもジャックとフェイらしいと思いますね。
ジャックはベジタリアンなので、私たち家族は家のなかでは肉類を食べませんが、厳しいルールは作りたくないという思いが大きい。なぜなら1日2、3回みんなが集まる食事の機会が、逆に厳しすぎて一緒に食べられないのでは意味がないからです。 店にオーガニックの野菜がなければ、一般的な野菜も買います。オーガニックのものが手に入らないから野菜を食べないというのもまた違うからです。
あまりストイックに考えすぎず “食べ物は楽しいもの” ということもアリサンブランドを通して伝えたいですね。
癒されて元気になる、新しいサステナブルな交流拠点
———アリサンパークでは定期的にイベントを開催していますね。どんな体験ができるのですか?
ケイさん:オーガニック・サステナブル・ベジタリアン・ウェルネスをテーマにしたイベントを週末に開催しています。例えば、日曜の朝に代々木公園でヨガや瞑想をし、その後カフェでランチをしたり、季節の変わり目に古着の交換会をしたり。
この前は、日本画の先生にペインティングを教わり、カフェで使わなくなった空のワインボトルにペイントをするワークショップを開催しました。オーガニックワインを飲みながらの楽しい会でしたよ。廃材がオリジナルのフラワーベースに生まれ変わりましたが、こうしたアップサイクルの取り組みを楽しむようなイベントを今後も企画しています。
また、ショップにあるオーガニック食材を使ったクッキング教室も予定しています。例えば、カフェメニューにもある人気のキャロットケーキやオートミールクッキーなどのベイクドスイーツを、店のオリジナルレシピを元に実際に作ります。
アリサンパークはショップ、カフェ、体験の3つの要素をあわせもった店舗。おいしい食事と多様な人たちが集まるサステナブルな交流拠点として、一緒に学び、つながり、楽しめたらと思っています。
———今後の展望をお聞かせください。
ケイさん:高麗の本店は自然に囲まれ、大きな公園がそばにありますが、ここアリサンパークも代々木公園がすぐ目の前というロケーションです。公園には散歩やピクニック、読書などみんなそれぞれの理由で来て、自然の空気を感じながらのんびりした時間を楽しみ、癒されて元気になると思うんですよね。
アリサンパークもそういう場所にしたいのです。イベントに参加して新しい知識を学んで、ショップで新しいオーガニックの食品を知ったり、スタッフと会話したり、カフェでおいしいものを食べたりして、少しでも癒されて元気になってほしい。
1階のトイレにはタイルで「HAPPY DAYS」と掲げています。それはいつもジャックが言っている言葉。食を通して人々をもっとヘルシーに、ハッピーな一日を過ごせる場所にしていきたいと思っています。
店舗情報やイベントの開催予定はインスタグラムでチェックできます>
ケイ・ベリスさん プロフィール
1994年オーストラリア生まれ。両親は老舗オーガニック・ベジタリアンブランド「アリサン」創業者ジャック&フェイ。日本、オーストラリア、アメリカのさまざまな環境に身を置き学んだ後、生産から提供までを一環して行うことができるオーガニック・ウェルネス業界に魅力を感じ、2016年に兄ジェイとともにアリサンに入社。2022年7月から代々木公園に隣接する「アリサンパーク」を兄妹で運営。好きな野菜は日本のきゅうり。
WRITER
敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。