あの人と“食べる”を話そう
まんぷくべジinterviewVOL.9

文房具専門店「銀座 伊東屋 本店」が手がける
銀座育ちの野菜の生産現場を見学

モダンな窓枠の向こうに青々と育つフリルレタス。ここは文房具専門店「銀座 伊東屋本店」の11階にある「FARM」。伊東屋といえば、1904(明治37)年創業、国内メーカーの文具はもちろん、欧米で買い付けた文具やオリジナル商品まで多種多彩に揃う老舗。そんな文房具専門店で、なぜフリルレタスが栽培されているのでしょうか? 銀座 伊東屋本店の副店長、石川真由美さんにお話しを伺いました。

FARM

 

文房具店内になぜ野菜工場が?! 

――2階はグリーティングカードや便箋、3階は万年筆、4階は手帳やノートなど、文房具好きはいるだけで幸せな場所ですが、11階に上がると趣きが異なる「FARM」があり、とてもユニークですね。ここは一体どういう場所なのですか?

 

石川真由美さん(以下、石川さん):ここは水耕栽培による野菜工場で、主にフリルレタスを栽培しています。種をまいてから、食べごろに育つまでの様子を窓越しに見学できます。営業時間内ならいつでも見学できますよ。ぜひみなさんに立ち寄って見ていただきたい場所です。

FARM
種まきして6日後。小さな葉っぱがかわいらしい
FARM
約40日かけてワサワサッと成長し、食べごろに。11階では窓越しに水耕栽培の様子を見学できる

 

――水耕栽培の様子を間近に見学できるなんてうれしいですね。でも、どうして文房具店が水耕栽培を始めたのですか?

 

石川さん:水耕栽培は2015年のビル建て替えを機に始まりました。

伊東屋は昨年120周年を迎えましたが、これからも変わらず文房具店を続けたいというのが私たちの思いです。

しかし少子化の影響もあり、文房具を購入する人口が減り、パソコンやスマートフォンの普及で手書きする人も減りました。さらにネット購入、コンビニや雑貨店などどこでも買えるようになり、わざわざ文房具店に出かける人が減っているんです。

銀座伊東屋本店の看板

 

石川さん:そうした背景から、「買う場所から過ごす場所へ」「働くをサポートする」というコンセプトを掲げ、お買い物が一つのエンターテイメントになるような店づくりをしました。銀座 伊東屋 本店に一度来たら、何度も来たくなるような仕掛けがさまざまあり、「FARM」もその一つ。

「FARM」で収穫したフリルレタスは12階にあるカフェ&レストラン「カフェ スティロ」で提供するサラダメニューに使用しています。“地産地消”ならぬ“ビル産ビル消”です。

FARM

 

――“ビル産ビル消”とはすばらしい取り組みですね。銀座一等地の文房具店の中に野菜工場があるというギャップもおもしろいです。

 

石川さん:実は昔、弊社社長がアメリカ留学時にあるテーマパークのアトラクションで見た野菜工場の記憶が鮮烈に残っていたそうなんです。旧ビル時代からあったカフェを、リニューアルを機にゆっくり食事も楽しめるカフェレストランにするため、サラダメニューや食材を検討していたのですが、価格や生産が変動する野菜の安定供給のためにも自社で栽培し、せっかくなら、見学できる野菜工場にしようということで「FARM」が誕生しました。

 

――10年前の誕生当時、お客さまの反応はどうでしたか?また、10年の間に変化はありましたか?

 

石川さん:店舗のリニューアルと同時でしたので、お客さまは大変興味深く野菜工場を見学してくださり、その足でカフェレストラン利用まで楽しんでくださいました。ビル産ビル消のサラダメニューは当時から人気で、おかげさまでSNSの投稿もたくさんしていただいています。

この10年の間に本店や野菜工場見学の修学旅行の学生さんや、コロナ前からは外国からのお客さまも増えました。また、企業や南方の国の方から野菜工場の視察の申し出もあります。

フリルレタスの水耕栽培の様子を眺めていただき、ぜひレストランで採れたてを味わっていただきたいです。食事を楽しむだけの来店も歓迎します。また、お買い物に疲れたらここでひと息ついてもらえればと思っています。

 

 

ビル産ビル消の魅力と、水耕栽培による野菜のおいしさの秘密 

――水耕栽培のメリットとデメリットを教えていただけますか?

 

石川さん:露地栽培と違って室内なので天候に左右されませんし、光と水、少ない栄養分だけで育てられるのがメリットです。種まきや植え替え、収穫するくらいで、さほど手間がかからないので栽培しやすいと思います。デメリットは設備投資など、コストがかかることでしょうか。

FARM

 

――太陽光の代わりのライトは一日中点灯しているのですか?

 

石川さん:LEDライトを使用していますが、22時に消灯、朝6時に点灯するようにプログラムされています。野菜も人と同じように、眠らないとうまく育たないんです。おいしいフリルレタスに育てるには1日のリズムをつけてあげることもポイントです。
FARM

 

――ちなみに見学用の窓がモダンでかっこいいですね。

 

石川さん:実は旧ビル時代の外壁窓をそのまま再利用しているんです。近未来的な野菜工場の窓枠に旧ビル時代の面影を感じていただければと思います。

旧ビル時代
「FARM」の窓枠のそばに、窓枠に関するキャプションが設置。11階は伊東屋本店の歴史を感じる場所でもある

 

――自社で水耕栽培したフリルレタスの味わいは、やはり一味違うのでしょうね?

 

石川さん:太陽や風にあたって力強く育った露地野菜に比べて、えぐみは抑えめ、でも野菜らしい苦みや青々しい風味はちゃんとあります。

野菜は収穫した瞬間から鮮度が落ちるので、フレッシュな採れたてが味わえるという点ではどこにも負けませんね。これが “ビル産ビル消” の強みです。

 

 

美味しいだけじゃない、カラダの中からもサポートする“食事になるサラダ”に注目!

――青々とした食べごろのフリルレタスを見ていると、採れたてのフレッシュ感を体験したくなりますね。

 

石川さん:ぜひ、12階の「カフェ スティロ」で採れたてを味わってください。

カフェ スティロ

 

石川さん:サラダメニューは9種類ありますが、開店当初からの一番人気は「イチジク&ブルーチーズのサラダ」。フリルレタスをベースにブルーチーズやイチジク、キャラメリゼしたナッツなどがトッピングされています。

“食事になるサラダ” としてラーメンどんぶりサイズのボウルで提供するので、結構なボリュームがあります。バルサミコドレッシングや塩をしても、採れたてならではのレタスのシャキシャキ感が最後まで持続しますので、ぜひ味わってみてください。

イチジク&ブルーチーズのサラダ
イチジク&ブルーチーズのサラダ1,750円。お好みでアボカド300円やチョップドチキン380円などトッピングも追加できる

 

――ランチならこれ一品で満足感が得られそうですし、夜はワインのおつまみにもなりそうですね。

 

石川さん:アメリカにも伊東屋の店舗(別業態「topdrawer」)があるので、出張や買い付けにいくのですが、向こうにはワンミールでおなか一杯になるサラダがよく食べられているんです。それまでの日本にはなかったスタイルなので、ぜひにと取り入れてみました。

 

――2017年ごろから日本でもワンボウルサラダが流行りだしましたが、2015年当時はランチのサラダというとサイドメニュー的なサラダしかありませんでしたね。日本におけるワンボウルサラダの先駆けは伊東屋だったわけですね。

 

石川さん:“食事になるサラダ” は野菜だけでなく、さまざまな具材がバランスよく入っていて食べ応えもありますし、健康にもいいですよね。コンセプトの一つである「働くをサポートする」という面でも、おいしいフレッシュなサラダを食べて、体の中からもサポートしようということで始めたメニューでもあります。

“ビル産ビル消”やサラダメニューの提供について、私たちスタッフも共感して取り組んでいます。商品はもちろん、空間や食事まですべて伊東屋オリジナルの世界観をぜひ体感していただければと思います。

ほかにも「銀座 伊東屋本店」は「買う場所から過ごす場所へ」「働くをサポートする」というコンセプトのもと、さまざまな仕掛けを用意しています。

1階にはスタッフが手作りしたレモネードなどを販売するジューススタンドがあるのですが、そこで購入したジュースを片手にお買い物を楽しむことができます。

レモネード
フレッシュレモネードshort 594円/tall 702円。飲み終わったカップは店員さんに渡せばOK

 

――自家製レモネードを飲みながら店内を巡り、お買い物が楽しめるなんてうれしいですね。ますますじっくり過ごしたくなりました。

 

石川さん:2階フロアの窓際には手紙を書けるスペースを用意しています。便箋や封筒を購入したら、銀座中央通りを眺めながら手紙を書いてみてはいかがでしょうか? 切手も売っていますし、本物のポストもあるので、その場で書いて投函までできます。

2階にあるポスト

 

石川さん:3階では、好きな色を組み合わせてカスタマイズできるオリジナル万年筆の売り場があったり、ペーパークラフト教室を開催していたり。そうしたわざわざ店舗に来ないとできないような仕掛けをたくさん用意しています。目的の文房具を買ったらすぐ帰るのではなく、ぜひ思い思いの時間を過ごしていただければうれしいです。

 

銀座 伊東屋本店 副店長の石川真由美さん

銀座 伊東屋本店 副店長の石川真由美さん プロフィール

千葉県生まれ。幼少のころから文房具好き。本・支店、マーケティング部、新宿店の店長を経て、現在は銀座本店の副店長。好きな野菜はトマト。1児のママでもあり、家でよく作るのが母親から教えてもらったレシピのトマトソースのパスタ。完熟トマトをつぶして作ったソースにパスタに絡めて、ソテーしたチキンを添えて食べるのが石川家の定番。

▶「カフェ スティロ」の詳細はこちら

 

WRITER

味原みずほ
Mizuho Ajihara

軽食ライター。野菜ソムリエ。都内飲食店を中心にマルシェや農家、料理研究家などへインタビューし、記事を執筆。ときどき愛用のカメラで撮影も。野菜・果物を好んで食べない夫が喜ぶ、野菜がたっぷり摂れる料理を研究中。