〜野菜を愛するフードスタイリストの食卓から〜 vol.2
執筆、編集、そして料理のスタイリングを生業する寺田さおりさん。2023年11月11日に開催された「文学フリマ東京36」では、初となる自主制作のZINE『うつわと人 Vol.01』を発売。うつわ好き、料理好きな人たちから密かに人気を集め、自主制作ながらじわじわと販売部数を伸ばしています。
時に言葉や写真で、時にスタイリングで食の風景を演出する一方、寺田さんは二児の母として、自宅のキッチンにも立っています。この連載では「フードスタイリング」のそとがわ、家族のあいだにある食の風景と向き合う姿を、寺田さん自身の言葉でお届けします。
小さくて深い、お弁当の世界
昨年の4月、息子が小学生となったことを機にわたしの生活の中に復活した習慣がある。それは「お弁当づくり」だ。
会社員だった頃はときどきお弁当を作って会社に持って行っていたのだが、フリーランスの在宅ワーカーになってからは、お弁当づくりはご無沙汰になっていた。
久しぶりのお弁当づくりを経て気がついたのは、わたしは無性にお弁当づくりが好きだということ。何ならふだん食卓に並べる食事づくりよりも好きなのかもしれない。
「自由過ぎると、逆に困る」という経験、ないでしょうか。
そういう意味でも「小さな箱の中におかずを詰める」という制約に、妙にワクワクしてしまう。ほかにも汁気があるものは入れられないとか、冷めてもおいしく食べられるものをとか、さまざまな制約がある中で、お弁当箱の隙間にぎゅっぎゅっと小気味よくおかずを詰めていく感覚はなんだか癖になる。
お弁当づくりでわたしがとくに意識しているのは、味と色味ができるだけ被らないようにすること。
たとえば、主菜が醤油で味つけしたものであれば、副菜は塩や酢、味噌で味つけする。
お肉やお魚などメインとなるおかずは茶色になりがちなので、副菜に使う野菜で緑や赤など色味を加えるようにしている。こうすることで、パズルを組み合わせるかのようにゲーム感覚で楽しめている気がする。
あとは、おかずを一部、ルーティン化してしまうこともおすすめ。わたしはお弁当に卵焼きと青菜を必ず入れると決めている。青菜は季節ごとに旬のものを使い、味つけも醤油でお浸しにする日もあれば塩麹でナムルにする日もある。こうすることで、黄や緑といった色味も確保することができる。
ふとしたきっかけで出会った、フードスタイリング
「料理の仕事」に興味を持ちはじめた数年前、都内のシェアキッチンを借りてお弁当を販売したことがある。
当時は、漠然と食や料理に興味があるけれど「自分には何ができるんだろう?」と迷っていた時期でもあった。そのとき、料理に関係するさまざまな仕事のうち、ケータリングに興味があったことから、思いきってシェアキッチンを借り、出店してみることにしたのだった。
「お弁当づくり」とひとことで言っても、細分化するといくつもの工程がある。メニューを決める、レシピを考える、買い出しする、調理する、詰める、販売する……。これらのうち、とくに好きだったのが「メニューを決める」ことと「詰める」ことだった。
このとき出店したお弁当のテーマは「たのしい・おいしい・やさしい」。
メニューを決めるとき、味はもちろんだけれど見た目にもこだわった。隣り合うおかず同士の色やかたちが被らないようにする。野菜本来の色やかたちを生かして、開けた瞬間にワクワクしてもらえるようなお弁当を目指した。
こうして出店回数を重ねるうちに、わたしはレシピを考えたり料理をつくること以上に、見た目や世界観をつくる「スタイリング」を重要視していることに気がついた。そこからフードスタイリストの道に進み、今に至っている。
いつもの食卓に「非日常感」を与えてくれる
お弁当に助けられた思い出もある。子どもたちが幼くて、野菜ぎらいや食べムラがひどかったころのことだ。
食事を作っても毎食のように残されてしまい、料理を作るのも食事をするのも苦痛になってしまっていたそんなある日のこと。休日のお昼ごはんを大きなお弁当箱に詰めて出してみたことがある。
その日は、たしか外は雨。お弁当を持ってピクニック、というわけにはいかないけど、家の中でレジャーシート代わりに大判のクロスを敷いて、別の部屋から子ども机とイスを持ち込んで、お弁当を広げた。
すると、子どもたちは明らかにいつもより勢いよく、ごきげんでお弁当を食べはじめてくれたのだった。それは今でも楽しい記憶として残っていて、以来、ときどきおかずを弁当箱に詰め、「おうちピクニック」をしている。
親も子も、少しでも食事時間を楽しめたら……と思い、苦肉の策ではじめたアイディアではあるけれど、「お弁当を広げる」ことは、大人にも子どもにも、ちょっとした非日常感を与えてくれるんだなと感じた。
だからわたしはこれから先も、日本が世界に誇る “BENTO”ライフを楽しんでいきたい。
「〜野菜を愛するフードスタイリストの食卓から〜 vol.1」はこちらから
料理とわたし【料理との距離感は、いつだって手探り中。】▶
WRITER
ライター・編集者、フードスタイリスト。会社員として地域・企業広報誌の編集部に所属し、コンテンツ制作を経験した後、独立。現在は、主に食と暮らし、ものづくり、地域、働き方をテーマに取材・執筆をしている。そのほか料理撮影におけるスタイリングを手がけることも。書く・撮るはライフワーク。ここ数年は発酵食に傾倒中。
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