『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事 ~育てる、味わう、丸ごと生かす~』が教えてくれる、すぐ傍にある植物の美しさと愛おしさ
奥薗和子さんに聞く「lala farm table」を形作るエッセンス
『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事 ~育てる、味わう、丸ごと生かす~』(山と渓谷社 刊)フローリストとしての経験が光る一皿、あるいは一束からは、奥薗さん自身が植物本来の美しさに強く惹かれているのだと気づかされます。
今回は、フローリストからハーブ農家への転身を決めたきっかけや、ハーブや草花の魅力、ドイツの人々のハーブとの付き合い方など、奥薗さんに「lala farm table」を形作るエッセンスを伺いました。
――『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事~育てる、味わう、丸ごと生かす~』で拝見した、ハーブだけで作られたブーケがとってもかわいくて、可憐で、すぐに大好きになりました。
奥薗さん:このブーケ、実はすべて食べられるハーブで束ねているんです。
――すごい……!確かに、お花屋さんで売られているお花とは違った草花の佇まいを感じますが、全部食べられるとは思えないくらい華やかですね。
奥薗さん:使っているカレンデュラやパクチーのお花、チコリの葉っぱなどは、サラダに散らしたり、ハーブティーにしたり、スープに入れたりできますよ。特に5、6月はハーブが盛りなので、この時期に育ったハーブを使って束ねると、色合いも優しくて。飾って眺めているだけで、なんだか心も穏やかになりますよね。
――奥薗さんが「lala farm table」を立ち上げられる前、フローリストとしてドイツで長年活躍されていたことを著書『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事~育てる、味わう、丸ごと生かす~』で知りました。このブーケからも、フローリストとしてのお仕事が垣間見えるように感じます。
奥薗さん:ベルリンにある花屋「ブルーメン マルサノ」で働いていた頃から、お花に草花を混ぜて作るアレンジが好きでした。お店の前によく、地元のお花の栽培農家さんが季節の草花やハーブをトラックで売りに来ていたんです。その農家さんたちから仕入れた草花やハーブと、市場で仕入れたお花を組み合わせてアレンジやブーケを作っていました。
――マルサノでハーブや草花を扱ったご経験が、ハーブ農家へ転身するきっかけに?
奥薗さん:お花のお仕事自体も好きでしたし、フローリストとしてのお仕事もずっと続けたいという思いもあったのですが、市場で仕入れた、ある程度規格化されたお花だけではなく、ハーブや草花のようなもっと自然な状態の植物を使ってお仕事がしたいという思いが次第に強くなっていきました。
――市場のお花と地域の農家さんから購入する草花とでは、仕入れにどのような違いが?
奥薗さん:各地の農家で育てられたお花は、花市場で競りに出されたのち、各地のお店に届けられます。たとえばオランダにある世界最大の花市場「アールスメール花市場」では、世界中から仕入れられたお花がヨーロッパ各国に運ばれていきます。もちろんこういった流通のおかげで、エクアドルやエチオピアが主要生産国のバラもドイツで購入できるわけですね。
世界中のお花が花市場に集まり、そこから各国に、そして各地の花屋へ……と、本当に長く大変な道のりを経て、お花はようやくお花屋さんに並ぶことができるんです。
反対に近隣の農家さんには、その時の見ごろのハーブや草花が売られていることが多いです。その地域に育つ草花や枝をトラックに積んで、お店の前まで売りに来てくれていましたね。
――市場のお花よりもハーブや草花に惹かれたのは?
奥薗さん:愛情の深さでしょうか。実際に無農薬栽培で植物を育てると、虫が付いたり、お花の中に卵を産んだりと、大変なこともすごく多いんです。ただ、そんな苦労や手間があるからこそ、植物に対する愛情もより大きくなっています。それに、自分で育てた植物なので、お客様にも安心して手渡しできるのも魅力ですよね。
そうして作り続けるうちに、自分で育てたその時期に見ごろのハーブや草花でも、自宅を彩ったり、癒やされたり、そして誰かに喜んでもらったりと、十分に楽しめるんじゃないかなって。植物のありのままの美しさにどんどん惹かれていっていますね。
――マルサノも、自社農園を始めたと伺いました。
奥薗さん:そうなんです。実はちょうど先日、マルサノの自社農園に行ってきたところです。
――ご自身のハーブガーデンと比べて、マルサノのガーデンはいかがでしたか?
奥薗さん:一緒に行ったスタッフが「奥薗さんの畑にすごい似てる」って言ってくれて。確かに植えているお花も似ていましたね。花の色の組み合わせやアレンジなど、私自身もマルサノからたくさんの影響を受けています。ですから、似てるって言ってもらえたのは純粋に嬉しかったですね。
2014年にドイツから帰国して以来10年ほど(2024年時点)一度も帰っていなかったのですが、スタッフみんなの変わらない様子も見れて、ものすごく充実した時間を過ごせました。
――lala farm tableでは、年間を通してどのくらいの植物を育てているのでしょうか?
奥薗さん:全部含めると100種類以上は植えていますね。たとえば、人参でも5種類は植えていたり。同じカテゴリーの植物を複数種育てているので、その分数も増えてきました。畑の面積も、70アールの広さがあって、1人で管理するにはもうかなり大変です。
――東京の青梅市で、ハーブや野菜を育てて気に入っているのはどのような部分ですか?
奥薗さん:東京と言っても、青梅には昔ながらの里山の環境が残っていて。畑でヨモギやミョウガを見つけたり、お隣にはお茶畑があったり。この地域に暮らしていた昔の人たちの畑仕事が、私の畑にも勝手に受け継がれているんです。そういう発見はすごく楽しいですね。
――そんなサプライズが!
奥薗さん:とはいえ、東京なので。東京という刺激的な場所の近くにいながら、里山の暮らしも楽しむ。そういう両面が青梅では味わえています。
――ドイツでの生活についてお聞きしたいです。著書でも「ドイツの文化や習慣、植物、 関わり方を知る良い機会だった」と述べられています。印象に残っている出来事はありますか?
奥薗さん:意外と、職場の外側での出来事が印象に残っていたりしますね。たとえば、職場仲間のアパートメントに遊びにいくと、キッチンの窓辺やベランダにハーブの鉢が置かれていることが多くて。そうすると一緒に食事の準備をしながら、ハーブをちょきちょきと切ってお料理に入れたり、ハーブティーにしたりというシーンがごく自然にあるんですよね。日本だと、お味噌汁にネギをちゃちゃっと入れる感覚でしょうか。
――ハーブが生活に馴染んでいるんですね。
奥薗さん:風邪を引いた時には、同僚から民間薬みたいな感じで市販のセージのキャンディをもらいました。「今夜はお湯を沸かして、ユーカリの精油を垂らしたお風呂に入って早く寝なさい」って。ハーブが身近にある彼らの生活から、日々影響を受けていましたね。
――最後に、これから『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事 育てる、味わう、丸ごと生かす』を読まれる方にメッセージをお願いします。
奥薗さん:ちょうど冬は、ハーブのメンテナンスの時期でもあります。良いタイミングでもあるので、ハーブを育ててみてほしいなと思います。ちょうどさっきも、チャイブの株分けをしていたところです。大きくなったハーブは、株分けをして増やしたり、周りの人にあげたりできるのも楽しみ方のひとつ。本書では、ハーブを収穫した後、大きく育った後のハーブとの向き合い方も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてもらえたら嬉しいです!
――ハーブと一緒に、季節を巡るのが楽しみになりました。私もたくさん参考にさせていただきます!本日はありがとうございました!
【Book】『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事~育てる、味わう、丸ごと生かす~』奥薗 和子/2024年/ 株式会社 山と渓谷社
Starring. 奥薗 和子 / Kazuko Okuzono
農家。ドイツマイスターフローリスト。
2019年に、東京都青梅市にて「lala farm table」を開園。
有機農法で、ハーブ、草花、野菜などを栽培・販売している。
WRITER
古いものと漫画と料理が好きなフリーランス。20歳のとき、産婦人科系の病を患い、食事や美容に気づかうようになりました。家族や友人と過ごす以外、お肉は控えるフレキシタリアンを実施中。ルールよりも、”心地よいおいしい”を大切にしています。最近ハマっているのは、米粉パン作り。次の目標は自家製酵母でライ麦パンを作ること。
編集・ライターのお仕事以外に、フランスで仕入れたアンティークのオンライン販売もしていたり。楽しく、ケセラセラと、好きなことに向き合っています。
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