\月刊『散歩の達人』連動企画/
月刊『散歩の達人』2021年10月号掲載「今日の気分はベジタリアン」特集で紹介したカフェ風精進料理店「こまきしょくどう 鎌倉不識庵」の、もう一つの気になる精進料理メニューについて、深掘りしてお届けします。2021年7月リニューアルオープンに際し、おかみの肝煎りで加わった注目のメニューです。
みなさんは “だし” をしっかり味わったことがありますか?
だしとは、一般的に昆布や椎茸、かつお、煮干しなどを煮出したり、水出しして、素材のもつ “うま味” 成分を抽出したスープのこと。料理に深みを与える重要な役割を担います。
しかし、あくまで縁の下の力持ち的存在で、自身が主役に躍り出ることはありません。カフェ風精進料理店『こまきしょくどう 鎌倉不識庵』のおかみ・藤井小牧さんは、そんな「控えめだけど料理の要として欠かせない精進だしの魅力をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」と、“だし”を主役にした定食を新メニューに加えました。
それが「精進出汁セット」です。
その精進出汁はなんと、耐熱ガラスのティーサーバーならぬ、だしサーバーで登場。定食がこんな形で提供されると、なんだかワクワクしてきます。
「これまで料理の後ろに隠れていただしの存在を“見える化”させたいと思い、たどりついたのがこの形。どんな素材が使われているのか、どんな味わいなのかに注目して楽しんでいただけたら。だし自体、本当においしいんですよ!」と藤井さん。
だしサーバーの上のポットには、素材とともにうま味が抽出されただしがすでに用意されてあり、あとは自分でお椀に注ぐだけ。ガラス製のサーバーなので、何の素材が入っているのかも一目瞭然です。
「精進出汁とは、植物系の素材を使っただしのこと。当店では道南真昆布(どうなんまこんぶ)、修善寺(しゅぜんじ)しいたけ、煎り大豆、かんぴょうなどを使用しています。まずは、だしそのものを味わってみてください。続いて、お盆に添えた塩、醤油、味噌玉をお好みで加え、味の変化もお楽しみいただけます」
2つあるお椀の一方にだしを注ぎ、まずはそのままひと口。淡い味のなかにしいたけの香りや煎った大豆の香ばしさもほのかに感じる上品な味わいが口中に広がります。飲み進めるうちに、じわじわと後からうま味が効いてくるのが分かります。これが、だしの味。
次はもう一方のお椀で、塩と醤油をほんの少し加えてお吸い物に。体の底からしみじみと感じるほっとするおいしさ。そして、ほんの少し調味料を加えるだけで、味わいのレンジがぐんと広がることに、あらためて驚かされます。次は味噌玉を入れてお味噌汁にしてみようかな?
自分で調味料を加え、カスタマイズしながら段階的に楽しめるのが「精進出汁セット」の醍醐味。また、ベースとなるだしの味を知ることで、お吸い物やお味噌汁の味についてもより解るというもの。
「ポットの中のだしがらも、お召し上がりいただけますよ」ということで、添えられたトングで椎茸や昆布、大豆をつまみ出し、お椀に入れていただきます。
素材を無駄なく使い切ることも、精進料理の大切な心得とのこと。だしがらもお吸い物の具として最後までおいしくいただきました。なんだか身も心も満たされる思いです。
だしの力がよく分かるお吸い物やお味噌汁は、雑穀米入り、または酵素玄米(+165円)から選べるごはんの甘みも引き立たせます。自分で完成させた汁物、ごはん、3つのおかず(菜)を交互に味わえる一汁三菜に、もうお箸がとまりません。
意外にも男性客のオーダーが多いというこの「精進出汁セット」。平日14時〜17時は1,320円、平日14時〜17時以外は1,650円(ドリンク・デザート付き)でいただけます。
だしのおいしさを段階的に味わえる、藤井さん肝煎りの「精進出汁セット」を楽しんでみてはいかがでしょうか?
*価格など掲載情報は2021年9月現在ものです
写真=新谷敏司
WRITER
敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。
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