「クックたかくら」惣菜づくりの現場レポート vol.1
「おばあちゃんが大豆ミートを使った惣菜を手作りしている」。そんな話を耳にし、なんて素敵なのだろうと早速取材を申し込みました。スーパーで手に取る機会が増えた “いまどき” のイメージがある大豆ミートを使った惣菜を、おばあちゃんが手作りしているなんて、予想外でもあったからです。
オーガニック・無添加にこだわるベジタリアン惣菜の先駆け
取材先は東京都東久留米市にある手作り冷凍惣菜を製造している「クックたかくら」。同社について事前にサイトで調べると「カラダにやさしい惣菜」をコンセプトにオーガニック、無添加、有機栽培、無農薬の原材料で作った惣菜を、機械を一切使わず、包丁一本で手作業にこだわって作っています。
主力商品はいまや肉を大豆ミートに置き換えたベジタリアン惣菜ですが、唐揚げやロールキャベツなど昔ながらの定番惣菜も手がけます。急速冷凍し、宅配会員向けや一部のスーパー、ホテルに出荷。小規模ゆえに商品のラインナップは少量多品目。人の手の温かみが伝わる仕事が同社の誇りでもあります。
そんな丁寧なものづくりを間近で取材するため、西武池袋線に乗り、東久留米市へ。「クックたかくら」は東久留米駅から徒歩15分ほどの場所にありました。建物の中へ入り、手指の消毒、マスクはもちろん、白衣を着てキャップをかぶり、作業中のキッチンへいざ!
そこは9名が立ち働く小さなキッチン。おばあちゃんが働く現場の雰囲気とはさぞ和気あいあいなのだろう。そんな光景を思い描いていたのですが、実際は異なり、みな黙々と作業を進めています。野菜洗い、カット、成形、パン粉付け、揚げ、パック詰めなどスタッフたちは各持ち場の仕事をよく知っていて手際よく、丁寧な仕事ぶり。
「じゃあ次はクリームコロッケね」などと時折、落ち着いたトーンのよく通る声で指示を出すのは調理長の高倉久江さん(75)。私がお会いしたかったおばあちゃんです。若々しく “おばあちゃん” には見えませんが、今年「クックたかくら」に入社した孫もいるのです。
パン粉をつけているのは、なんと社長で夫の高倉正雄さん(79)。普段は営業で外回りですが、社長自らキッチンに入り、時々こうしてパン粉をまぶすお手伝いもされています。
このお2人が1986年に弁当と惣菜の店を始め、1990年「クックたかくら」を法人化。2006年からは新しい食材として大豆ミートや麩を代替肉として取り入れ、ベジタリアン向けの惣菜を積極的に手がけるようになりました。
ボードには注文数が書き込まれた商品名がずらり。昔ながらの惣菜に加え、今では「大豆ミートボール」や「豆腐バーグ」といったベジタリアン惣菜が主力商品に。冷凍惣菜ではあるものの鮮度にこだわり、作り置きはしないといいます。注文が入ってから調理し、急速冷凍して翌日に出荷するのが「クックたかくら」流。
「2006年に大豆ミートを使い始めたころは、ベジタリアン惣菜を積極的に手がける業者がまだまだ少なく、あっても経営が立ち行かなくなり閉業していくところもありました。そんな中、お付き合いのあった業者から取り引き先を紹介していただいたのです」と当時、新規開拓営業に勤しんでいたという正雄さん。
もともとオーガニックや無添加にこだわった丁寧な惣菜作りに定評がある「クックたかくら」ですが、ベジタリアン惣菜を手がけるようになってからは、JALファーストクラスの機内食や京都大学の学食などからも依頼がくるように。その時、正雄さんは大豆ミートのポテンシャルを強く感じたといいます。
「肉の惣菜を食べる人と同じように、ベジタリアンの人にとっても惣菜の選択肢を広げてあげたいという気持ちが大きくなりました。オーガニックの惣菜をぜひ食べてもらいたいですね」
大手企業や飲食店が “食の多様性” に取り組み始めて顕著だったのが、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向けてインバウンド需要に備えていた時期。いまではスーパーやコンビニで手軽に入手できるようになった大豆ミートの商品ですが、先駆けること16年前から作り続けてきたのが「クックたかくら」なのです。
それでは、どのようにベジタリアン惣菜を手作りしているのでしょうか?
キッチンの総監督はおばあちゃん
久江さんに製造内容をうかがうと、この日はすべて植物性食材を使った惣菜で「ポテトコロッケ、クリームコロッケ、大豆ミートコロッケ、ベジ春巻き、餃子。全部で700個ほど作ります」と教えてくれました。
注文を見て、前日に何を作るか段取りを決め、スタッフそれぞれの進み具合を見ながら、担当の割り振りをして要領よく進めるのが久江さんの役割です。
キッチンではちょうどクリームコロッケを成形し、パン粉を付けて、揚げるという流れ作業をしていました。
俵形に成形した生地に薄力粉をつける社長の正雄さんと、パン粉をつける久江さん。
クリームコロッケを揚げるのは息子の高倉尚さん(49歳)。
午後の仕込みでにんじんをカットする娘の鈴木静香さん(48歳)。クリームコロッケを作る傍ら、同時平行にいろいろな作業を分担しています。
こちらのパートさんはベジ餃子のあんを一つひとつ皮で包む作業。手際よく次々と同じ分量を均等の形に包んでいく熟練の技にみとれてしまいます。
出来上がったら冷凍庫で急速冷凍。大きな倉庫のような冷凍庫の温度計はマイナス9度〜14度を示していました。ここで一晩冷凍保存。
一晩冷凍保存した商品を袋に詰めてパッキング。
こうして、それぞれ出荷先へ発送します。前日製造したマカロニグラタンや大豆ベジバーグも一晩冷凍したらすぐ発送。冷凍食品とはいえ “出来たてをお届けしたい” “つくり置きはしない” という矜持を目の当たりにしました。
ひと昔前、パートさんの多くは久江さんと同世代でしたが、いまは静香さんの年代と世代交代。パートさんたちに職場の雰囲気についてうかがうと「とてもアットホームですよ」と口を揃えます。
小さな頃から母親の静香さんとおばあちゃんの傍にいて、パートさんからも「ヒロちゃん」と呼ばれていた孫の大将さん(25)も、今年「クックたかくら」に新卒入社。いまや大豆ミートの惣菜作りは、親子3世代にわたる家業になりました。
左から高倉久江さん、孫の鈴木大将さん、高倉正雄さん。
70代後半になっても、現役で現場に立ち、スタッフを統率する正雄さんと久江さん。毎日立ち仕事で体力的にも大変では?
「40年近くずっと立ち仕事。でも大変だと思ったことはないです。逆に働いているのが楽しいのね!自分たちが立ち上げてやっていることですから。少しずつですがここまで仕事が大きくなってありがたいと思っています」
そう笑顔で語る久江さん。惣菜作りの仕事そのものを楽しんでいる様子が笑顔からよく伝わってきました。
ただ、今でこそベジタリアン惣菜は主力商品ですが、大豆ミートを知った当時の久江さんは全く興味がなかったとか!? 次回はベジタリアン惣菜を作るようになったきっかけについてのお話と、意外に手間がかかる大豆ミートをおいしく下処理するコツを久江さんに教えていただきます。
(vol.2は近日公開予定!)
【会社概要】
クックたかくら
住所:東京都東久留米市南沢3-1-1
電話:042-474-0876(平日9:00-17:00 ※12:00-13:30のお電話はご遠慮ください)
HP:http://cook-takakura.co.jp/
【クックたかくらの冷凍惣菜を購入できる店舗】
・オーガニック・自然食品を扱う専門店「こだわりや」池袋ショッピングパーク店、国分寺店ほか
【宅配会員向け】
WRITER
敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。
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