いつもの野菜が、おいしくなる話。
feat.都立大島高校農林科[vol.2]
feat.都立大島高校農林科[vol.2]
日本の野菜づくりの現在と未来に、ワクワクしたい。都立大島高校農林科を通して、「農と食」のことをお伝えするルポルタージュ連載です。
クイズ。これは、何の実でしょうか?
答えは、「島とうがらし」。一般的な唐辛子よりも小ぶりで、島の方達は「シマトウ」と略して呼んだりもしています。大島ほか、東京島しょエリアの特産物です。
緑色の実は「アオトウ」=青とうがらし、もうしばらくすると赤く熟して、赤とうがらしになります。大島高校の畑には青とうがらしが、調理室の棚には赤とうがらしが、どっさりとありました。
大島産の島とうがらしで、オンリーワンのキムチの素を作る!
大島の食卓に辛味と香りをもたらす島とうがらし。春に種まきし、夏から秋にかけてが収穫期。実は冷凍庫に保存され、1年中使われています。郷土料理として有名な「べっこう寿司」の漬け醤油にも欠かせません。近年のスパイスブームで全国での注目度も高まっているので、ご存知の方も多いかと思います。
夏の訪問時、大島高校農林科では、このシマトウを活かした2020年の新しい商品を作ろうとしているところでした。
農林科のみんなで話し合って決めたという新商品は、キムチの素。
決定の理由を尋ねると、「豚キムチが食べたいから」という、なんとも朗らかで高校生らしい回答でした。
製造会社さんから届いた試作を使ってキムチの味見をするというので、私もご相伴にあずかることに。
キムチの素は、シマトウを中心に据えながら、天然酵母やりんごの植物発酵エキスなど、すべて国産の素材だけで作りたいのだそうです。化学調味料に頼らず、どう旨味を出していくのかがポイント。
塩もみした採れたての野菜をキムチの素で和えて30分ほど。フレッシュなキムチをいただきましょう。
わ〜、美味しいねぇ……あ、待って待って、辛い!
噂には聞いていましたが、これほどとは。
猛者の挑戦を受けて立てるほどの、鮮烈な辛味、熱感。
旨味はある、意外とトマトとも合う。ただ、追いかけてくる辛さが止まらない!
……農林科の教師と生徒全員で味見し、話し合い、キムチの素は、試作よりちょっぴり一般向けに調整することになりました。
2020年11月、東京の真ん中でついにキムチの素がデビュー!
季節は過ぎて晩秋。大島高校から連絡がありました。キムチの素が完成し、生徒が島から泊まりがけでやって来て、都内でのイベントでお披露目販売をするというのです。
イベントの名は「全国農業高校収穫祭」。
12回目を迎える今年は、全国から大島高校を含めた9校が即売会を行ったほか、全国の農業高校全300校のうち、40校のパネル展も同時開催。場所は東京駅そばの大丸東京店という、東京の真ん中です。
毎年楽しみに訪れるリピーターに混ざって、私も初日の朝にかけつけました。
見つけた!
ショーケースには、ラー油3種類、烏骨鶏の卵、薫製卵、海苔の佃煮、そして新作キムチの素の姿も。
キムチの素の商品名は「大島キムチの素」。大島特産の島とうがらしに加え、大島伝統の海塩「海の精」も新たに使用されていました。化学調味料や食品添加物を一切使わないこだわりを貫き、パッケージは生徒のアイデアを活かしたインパクトあるデザインに。
1年生の3人が、先生に見守られながらお客様に商品の説明をし、梱包をし、お会計をしています。3人にとっては今回のイベントが、初めての校外実習なのだそう。
次々とお客様が訪れては、生徒たちと話し込んで気に入った商品を購入していきます。
時には、ちょっとした人だかりも。
「大島キムチの素」100個は、イベント開催半ばで見事完売となりました。
ちなみに、大島高校のほか、参加した岩手県立一関第二高等学校、宮城県伊具高等学校、茨城県立真壁高等学校、東京都立三宅高等学校、愛知県立安城農林高等学校、愛知県立半田農業高等学校、京都府立須知高等学校、広島県立世羅高等学校も、それぞれが学びの中で作った農産物を販売し、すべて完売したそうです。
イベントから帰宅して、大島での夏を思い出しながら、キュウリのキムチを作りました。
でき上がったキムチは、旨味と辛味のバランスがぐっと整って、でも、島とうがらしのキリッとした個性が発揮されたオンリーワンのお味。高校生たちの想いと工夫が詰まった、青春の味。
大島高校農林科に、またひとつ新しい看板食品が生まれました。
生産者(第1次産業従事者)が野菜づくりだけでなく食品加工・製造(第2次産業)、流通や販売(第3次産業)まで手がけるこの一連の取組みは、「6次産業化」と言われています。
農業のこれからを拓くと奨励されている一方で、加工・製造ノウハウや販路の開拓など、成功に向かう中には、実際さまざまな道のりが必要です。
今回の「大島キムチの素」は、その学びの一環。
お値段500円という良心価格は、きっと生徒の6次化体験を最優先にした値付けなのだと思います。田畑と向き合い続ける作り手が、遠く離れた都会で食べ手とも直接つながる機会が増えることを、農業高校全体が進めているのです。
私たち食べ手にできることは、手にとった商品の物語と、未来への可能性を美味しく、お腹いっぱいいただくこと。
キュウリのキムチをポリポリしながら、年に一度の「全国農業高校収穫祭」の会場だけでなく、大島高校農林科のふだんの販売所で、「大島キムチの素」が地元の方や観光客に次々と買われていくシーン、辛味に目を見開く人が増えていくことを想像して、ちょっと嬉しくなりました。
次回は、大島高校農林科の販売所が、「僕らの島高夢マルシェ」に変身したお話をお伝えします。「まんぷくベジ」が、2校の学生の素敵なコラボレーションのお手伝いをしました。
文=くりたしの
撮影=林チカラ
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