いつもの野菜が、おいしくなる話。
feat.都立大島高校農林科[vol.1]
feat.都立大島高校農林科[vol.1]
まずクイズ。
これは、何をしているところでしょうか?
答えは「トマトの手入れ(芽かき)や収穫時に使うハサミを、石灰で消毒しているところ」です。
サウナ級に暑いハウスで収穫される
はじけるほどプリプリのトマト
2020年夏、縁あって伊豆大島に向かいました。訪れたのは東京都立大島高校農林科です。10人の生徒が、東京ドーム2.5個分もある敷地で、野菜・草花・畜産・森林の専門分野を学んでいます。
野菜分野では多品目の栽培方法を学べるという大島高校農林科。夏にはきゅうり、トマト、なす、ピーマン、枝豆などが、秋冬に向けてはブロッコリー、だいこん、はくさい、ごぼう、ネギ、さつまいもなどが栽培・収穫されています。
今年は、コロナ感染拡大防止のための休校期間があり、授業は6月15日から少しずつ。
私が訪れた7月の初旬、学年ごとの実習授業では、ハウスの天井近くまで育ったトマトの手入れや収穫が行われていました。休校中には教員の方たちが、種まきや植え付け、芽かきなどの世話を続けてきたそうです。
あ、食べよった。
つまみ食いではなく、出荷できない、はじけたトマトですって。
おいしい?そうか、そうだよね。
「トマトは、触っただけではじけてしまうことがある」というのを、初めて知りました。
プリプリだものね、生きてるね、トマト……と感心していたら、ハッとしました。ふだんスーパーで買っているトマトもはじけていること、ある。あるある!私、トマトを選ぶときに皮の破けた粒が入ってると、何か悪いことがおこったのかと思い、すっと避けていました。でも。
生きてるから、はじけることもある。ただそれだけ。というか生きてるからこそ、はじける。そうか。悪いことなんかじゃなかった。気にしなくっていいんだ。
生産者が聞いたら「何を言ってるのかね?」というような小さなことかもしれないけれど、消費者代表・大発見!
生徒たちは、「フルティカ」、「アイコ」、「千果(ちか)」などの果実の色づきを見極めては摘み取った後、枝から果実につながる果梗(かこう)と呼ばれる軸部分を、ハサミで根元まで切除。ハサミの刃はトマトに触れるたびに、石灰へつけて消毒。
「暑っぢ〜!」と汗だくになりながら、誰も手順は省かない。サウナ級に蒸し暑いハウスで続けられる収穫作業を、私はただただ見続けました。
高校生自身の取組みで始まった
安心な農業生産工程管理「J GAP」
実習授業は続きます。収穫されたトマトを校舎の出荷調整室に運び、やさしく水洗いし、計量、袋詰め。ただし、すべて記録をとりながら。教員の方たちも、作業を生徒と一緒に行いながら、コツや管理方法などを伝えていました。
あ、その口。また食べたね。……またはじけたトマトがあったのね。了解。いいなぁ。
大島高校農林科では、毎週火曜・金曜の午後に校舎で生産品の販売所を設け、季節の収穫された野菜や果物を販売しています。客層は主に島の住民の方々。観光客が訪れることもあるそうです。栽培だけでなく出荷・販売までの一環が、現代の農業の学びなのだとか。
農林科で使っている教科書も見せてもらいました。
さらに、都立大島高校農林科のトマトは、ブロッコリーとともに国際的な農場管理の基準であるGLOBAL GAP(※1)の日本版認証制度、JGAP(ジェイ・ギャップ)認証を取得しています。
在校生の先輩にあたる2019年度の卒業生が課題研究として1年間、認証取得に向けてリスクの洗い出しから取り組み、冒頭で紹介したハサミの消毒はもちろん、手順まで決まった作業者の手洗いや土壌管理の具体的方法など120項目以上の基準をクリアしたノウハウが、後輩である在校生に受け継がれ始めたところなのだとか。
今年からはJ GAP認証を通じて、食品安全、環境保全、そして労働安全の持続可能性を確保する、これからの時代に必要な農業の教育と実践を進めていくそうです。
※1 GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)
収穫されたトマトが、販売所に並びました。野菜たちは、誰かの食卓へ、誰かの口へと向かって旅立っていきます。
フィルムパックや箱に詰められた状態で野菜を選んで購入ばかりしてきた食べ手にとって、商品となる前の野菜の物語は、未知の世界。
オーガニックや無農薬、名産地にブランド野菜など、魅力的な情報が私たちの身の回りには多々あるけれど、その前に日本の野菜づくりの現在にワクワクしたい。
「まんぷくベジ」では、大島高校農林科を通して、これから少しずつ、「農と食」のことをお伝えしていきます。
知れば知るほど、私たちは野菜のおいしさをもっと感じられるようになるはず。
8月31日、野菜の日によせて。
執筆=くりたしの
撮影=林チカラ
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