カフェオープンから、N.Y.でのおいしい日々

野菜を愛する、小さなカフェ便り#1

ご自身がヴィーガンであり、ヴィーガンシェフ・料理研究家として毎日キッチンに立つ篠宮美穂さん。野菜を愛する彼女は、20代で小さなカフェをオープンさせ、そこからさまざまな国へ渡っては、おいしい味とたくさんの人々と出会ってきました。そんな、誰もがワクワクするような物語を語っていただきました。

旅する店主が営む、町の小さなカフェ

 

 2003月、『コミューン』という小さなカフェをオープンした。
当時私は都内の大手コーヒーチェーンで働いていたが、カフェのオープンは千葉の実家一階にある店舗スペースがその時たまたま空いていたのでという安易な理由から始まり、気がつけばそれも18年も前の話になる。

 

花の写真


今でこそ、ヴィーガンの食生活を送る私だけれど、カフェをオープンした当時は、ベジタリアンやヴィーガン、オーガニックなどという言葉はあまり聞いたことがなかった。それどころか、私自身が子どもの頃から好き嫌いが多く、どうしたらこの野菜をおいしく、食べやすくできるだろうかと、色・大きさ・バランスなどを考えながら料理していた。そんな私の料理をたくさんのお客様、とくに小さな子どもたちが好んで食べに来てくれた。それがとにかくうれしくて、コツコツとマイペースに、小さなキッチンで料理をしたり、コーヒーを淹れたりしていた。

 

充実した毎日ではあったが、もっといろいろな経験が積みたくて、海外へ旅に出ることも多かった。もちろんその間はカフェも休業。旅に出る期間が最低でも2週間と長いこともあり、最初はお客さんにも驚かれた。何度もそうしているうちに皆慣れてしまい、「次はどこに行くの?」と、楽しそうに聞いてくれる心優しい常連さん達のおかげで、お店は成り立っていたのである。

 

 

 

おいしい料理が、人と人との距離を縮めてくれる

 

さて、旅に出ると毎回ぶつかるのは言葉の壁。言葉が通じないとコミュニケーションが取れないので、文化の違いをわかり合うのは難しい。自分が言いたいことが相手に伝えられなくて、悔しい思いをすることも多いのではないだろうか。

 

ニューヨークの公園

 

 英語くらい話せるようになりたい!というわけで、ニューヨークに3カ月滞在することにした。私が通った学校は少し変わっていて、先生方は全員ボランティア。でも、何かしらのプロフェッショナルで、それぞれが専門分野を教えてくださる。私がとくに好きだったのは、料理のクラス。とはいえ、学校内にキッチンがあるわけではないので、毎回自分の国の料理をそれぞれ持参し合う。
 

一度、日本人の年配男性がイナゴの佃煮を持ってきて、みんなをギョッとさせた場面があったことは、今でもよく覚えている。世界各国から集まる生徒たちが、毎回いろいろな料理を持ち寄り、食べ物を通してさまざまなことを英語で話し合う。料理のことや材料の名前、レシピ、どんなイベントの時に食べるのか、などなど……

 
サンクスギビング(感謝祭)も近づいたある日の授業で、先生がターキーに詰めるスタッフィングを持ってきてくださった。パンと野菜を混ぜたものが一般的だが、先生のスタッフィングはオレンジとレンズ豆を使っていて、ジューシーでさっぱりしていて、とてもおいしかった。その後、ハワイのカフェで働いていた時に、グルテンフリーのスタッフィングを注文されたことがあった。その時、まさにこのスタッフィングを思い出して、アレンジして作ってみたら、とても喜ばれたのだった。

 

 

ニューヨークの街並み

 

 私がニューヨークに滞在したのは、夏の終わりから冬の初めにかけてだった。街へ出ると、ユニオンスクエアではファーマーズマーケットが催され、新鮮なローカルの野菜やフルーツが並び、たくさんの人が行き交っていた。

 

ベリー系のフルーツ写真


私が住んでいた駅のすぐ近くにオーガニック食品の店があった。当時はオーガニックに関する知識が乏しかった私は、店内をぐるりとまわっても、何を買っていいのかわからずにいた。ただ、その店に入ると独特の野菜の匂いがして、思わずセロリの株を手に取っていたのだ。家に帰ってセロリのスープを作ると、すごく力の湧く味がした。日本人女性とルームシェアをしていたので、よくスープのおすそわけをし合っていたのだが、彼女の作る野菜のスープ(にんじんと生姜のポタージュや、じゃがいもとナツメグのポタージュなど)は、シンプルでいてやさしい味がして、寒い冬の日にも私たちの身体を芯から温めてくれた。

 

 

旅を通じて出合った味は、今も私の中にある

 

さて、話はコミューンに戻る。店の看板メニューはキッシュだった。フランスの友人直伝の味。毎日違う野菜を入れて、日替わりのキッシュを作っていた。

 

キッチュプレートのご飯


今、私はヴィーガンなので、卵やバター、チーズを使うことはない。その代わりに、豆腐とほうれんそう、ドライトマトのキッシュを作ったりする。卵の色はターメリックで、チーズのような味やコクはニュートリショナルイーストや味噌などを使う。使う材料は違っても、料理の楽しさは変わらない。

 
ニュートリショナルイースト……チーズに似た風味のフレーク状の酵母。ベジタリアンのビタミンB類補給にも使われる。

 

旅で出合ったたくさんの味。おいしいものは感覚的に覚えているから、少しの知恵をひねって、その場所で手に入る素材を使って作ってみる。そうすると、新しい自分の味が生まれて、それがまた楽しいのだ。たくさんの好奇心と、豊かな想像力をもつ人生でありたいなと思うのである。

 

 

 <プロフィール>

 みほさんの画像

篠宮 美穂(しのみや みほ)

 ヴィーガンシェフ、ヴィーガン料理研究家、「MNEMONIC BEVERAGES」ディレクター。カフェを12年経営。渡米してヴィーガンカフェで働きながら、ヴィーガン料理、概念について学ぶ。現在は日本で、地球にやさしくユニークなプロジェクトを立ち上げ中。趣味は自家製酵母のパン作りと、ヴィーガニックコンポストの土づくり。

美穂さん(@rabbitbook)のInstagramページはこちら

 


 
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