野菜を愛する、小さなカフェ便り#3
ヴィーガンシェフ・料理研究家として毎日キッチンに立つ篠宮美穂さん。2011年、インターンとしてハワイのヴィーガンカフェで働きはじめ、そこでたくさんの出会いを経験します。そんな日々の中で、次第にヴィーガンの食生活へと変わっていったのです。さて、今回は、ハワイのどんな野菜や料理が登場するでしょうか。
ヴィーガンになるということ
はじめて真剣に考えた、ハワイでの日々
ハワイのヴィーガンカフェで働くようになって、毎日たくさんの種類のヴィーガン料理を作る機会を得た。かといって、すぐに私の食生活が100%ヴィーガンになったわけでもなく、観光でハワイに行ったら食べたいもの!と、思いつく限りのものはある程度食べたと思う。当時のルームメイトがハワイアン料理を作ってごちそうしてくれたり、日本から友人たちが遊びに来てくれたときには、一緒に外食をすることも多かった。
ハワイらしい食文化や生活を楽しみつつ、郷に入っては郷に従えで、ヴィーガンについても少しずつ理解しようと思いはじめた。休み時間にはヴィーガンについての本を読んだり、職場の同僚たちに、なぜヴィーガンになったのかと質問をしてみたりもした。
店にはヴィーガンに関連する本が何冊か置かれていて、その中に『チャイナスタディー』(T・コリン・キャンベル著 グスコー出版)という本があった。アメリカでは、この本に影響を受けてヴィーガンになった人も多いらしい。その本には、1980年代に米英中共同で調査した膨大なデータから、肉や卵、乳製品などの動物性タンパク質を多く摂取することで、癌や心臓病などの発症率が高まるということが見出されたと記されている。さらに、動物性食品をできるだけ避け、植物性食品を中心とする食生活をすすめるというようなことが書かれていた。
私自身はこれまで、食事はどんなものでもバランスよく食べていれば、身体によいと思っていた。とくにチーズや卵は好物だったので、この本によると、動物性のタンパク質が癌や心臓病の原因になり得るというのは、正直ショックだった。
ヴィーガンのスタッフになぜヴィーガンになったのかと聞くと、動物が好きだから、動物を傷つけたり、自分たちのために殺したりしたくないから、という答えが返ってきた。健康面や環境のことを考えて、という答えもあった。
新しく学んだこと、ずっと知っていたけれど知らないふりをしてきたこと……。それらを踏まえて、これからの私はどうするの?というスタート地点に立たされた気がしたのだ。
ヴィーガンのお手本は、
仲間お手製のアイデア満載、野菜料理
当時の職場の上司やスタッフはヴィーガンの人も多く、とにかくみんな料理が大好きだった。職場以外でも、誰かの家に集まっては、よく一緒に料理をした。
一時は“No-Salt Diet”が流行り、塩を全く使わない料理を作ることもあった。塩が使えないということは、醤油や味噌や海藻などもNGである。けれど、みんなで集まるとさまざまなアイデアが飛び出し、彩りも鮮やかで、塩がなくてもおいしいものがたくさんできあがるのである。
たとえば、チアシードを生地に練り込んだ、紫サツマイモペースト入りのラビオリにケールのソースをかけたり、ココナツカレーにもち粉を使ったナンを添えたり、アボカドのワカモーレやパクチーなどの香草を使ったファヒータをクレープで包んで食べたり……。ほかにも、ローカルのフレッシュな野菜は素揚げしたり蒸したりするだけで、とてもおいしかったし、スイカ嫌いの私がスイカの入った温かいスープと出合い、今ではそれを思い出すだけでも、もう一度食べたい!と心躍るのだ。そんなメニューが、仲間との食卓にはたくさんあった。
※チアシード……メキシコ原産の「チア」というシソ科の植物の種。非常に栄養価が高く、スーパーフードと呼ばれている。
※ワカモーレ……メキシコ料理のサルサの一種。アボカドやトマト、玉ねぎ、ライム、コリアンダーなどをすりつぶして作られる。
※ファヒータ……トルティーヤに包む、グリルしてスパイスで味付けした肉料理の総称。このときは野菜で代用。
このダイエットにはきちんとした知識が必要なので、安易に行うことはおすすめしないのだが、1〜2日くらいなら意外と乗り越えられる。むくみがとれて、目の下がスッキリする顔を鏡で見たときは驚いた。しかし、私たちは迂闊にも、塩抜き状態でショートハイキングに出かけてしまい、辛い目にもあった。くれぐれも無理は禁物である。
仲間と料理をするのは本当に楽しかったし、たとえヴィーガンでない人が居ても、基本はヴィーガン料理を作る。これはヴィーガンの人たちがどんな食材を使って、どこで材料を手に入れて、どのように調理するのかなどを知るのにとても役立った。何よりも、困ったときに教えてもらえる仲間がいるということが心強かった。
野菜と向き合って、料理を楽しむ
そんな環境が、私を変えた!
ローカルの野菜を手に入れたいと思ったら、まずは、新鮮で値段が手頃なファーマーズマーケットへ。ただしフルーツは割高なので、「Down to Earth」や「Kokua market」など、地元のオーガニックスーパーで買うことが多かった。そのほかにも、さまざまなヴィーガン食材の取り扱いも多く、日本でも最近増えてきた量り売りのコーナーでは、豆やナッツ、キヌアや粉類、スパイスやお茶類に至るまで、タッパーやジャーなどを持参して購入していた。
※キヌア……原産地はアンデスの高原。ほうれんそうやてん菜の仲間で、その種子の部分が食用になり、アワやキビなどと同じ雑穀に分類される。高い栄養素をもち、タンパク質とアミノ酸が豊富。
時折、日本では見たこともない材料を友人からもらうこともあった。とくに、目の前で斧を使って割ってくれたフレッシュなココナツは格別。ココナツウォーターはほんのりと甘く、中の白い果肉を絞るとミルクがとれ、そのまま食べればスナックにもなる。畑や庭で収穫された南国フルーツや見慣れぬ野菜は、まず匂いを嗅いだり、生のまま少しかじって味見をしてから料理をした。新鮮な素材は、味が濃くて栄養価も高いので、植物性食品中心の食生活に段々と切り替わっていっても、体に負担がかかることはなかった。カフェでの仕事は体力第一だが、長時間働いてもスタミナが切れることはなく、おまけに生理痛も軽くなり、便秘とは無縁になった。
このようにして、ハワイでベジタリアン、そしてヴィーガンの食生活に移行していくことができたのは、いつも楽しく料理をし、知識を分かち合える仲間に恵まれたこと。おいしいと思える新鮮なオーガニック野菜が身近にたくさんあったこと。ヴィーガンの食材が簡単に手に入ったこと。そして、美しい自然に囲まれた小さな島で暮らす多くの人々が、日々自然に感謝しているのを肌で感じ、環境について考えるチャンスをもらったからなのである。
<プロフィール>
篠宮 美穂(しのみや みほ)
ヴィーガンシェフ、ヴィーガン料理研究家、「MNEMONIC BEVERAGES」ディレクター。カフェを12年経営。渡米してヴィーガンカフェで働きながら、ヴィーガン料理、概念について学ぶ。現在は日本で、地球にやさしくユニークなプロジェクトを立ち上げ中。趣味は自家製酵母のパン作りと、ヴィーガニックコンポストの土づくり。
美穂さん(@rabbitbook)のInstagramページはこちら。
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