とうふの魅力を再認識! 30年愛される名物料理
極めてシンプルながら奥深い味わいで魅了する「とうふ屋うかい」の名物「豆水とうふ」。1993年の大和田店創業以来、30年間愛され続ける名物料理です。長年愛される豆水とうふの誕生秘話やおいしさの理由について、株式会社うかい 物販事業部 食品開発・製造部 料理長の菊地剛(きくち・たけし)さんにお話しを伺いました。
おいしい水を求めて場所探し
―――「とうふ屋うかい」は現在、大和田店、鷺沼店、東京芝と3店舗展開されていますね。なぜ、とうふ料理をメインにした店を始めたのですか?
菊地料理長:もともと鉄板料理「うかい亭」や懐石料理「うかい竹亭」などの店を展開していました。そのなかで、創業者が和食をもっと気軽に楽しんでもらえる店をと着目したのがとうふ料理だったのです。1993年に東京八王子に「とうふ屋うかい 大和田店」をオープンしたのが始まりです。
―――「とうふ屋うかい」といえば、名物「豆水(とうすい)とうふ」が代名詞。とうふと豆水(=豆乳スープ)のみという、極めてシンプルな組み合わせですが、その深いおいしさに魅了される人が多いですね。この名物が誕生した背景を教えてください。
菊地料理長:とうふをどんな食べ方にしたらお客様に感動していただけるだろうかと、創業者と当時の料理長とで考え生まれたのが豆水とうふです。豆乳と一緒に食べることで、大豆の旨味や甘味、香りがより一層引き立つので、このスタイルになりました。今でこそ珍しくありませんが、30年前の当時は豆乳鍋もなかった時代。かなり斬新な料理だったと思います。
そして、「うかい」ならではのクオリティを追求した空間やもてなしのなかで味わっていただく料理として、原材料はもちろん、立地にもこだわりました。とうふの原料は大豆と水とにがりのみ。そのうち、約90%を占めるのが水なんです。昔の文献に「武蔵野の国大和田の名水」という記載があります。八王子はうかいグループの創業地でもあり、その縁のある八王子のなかでも水のきれいな場所としてこの大和田に店を構えることになりました。大和田店の中には、とうふの製造工場が併設し、ここで作られた出来立てのとうふが、毎日グループ店舗に運ばれています。
香り高く、甘味が強い、のど越しのいい自家製とうふ
―――― 大豆はどのようにセレクトしていますか?
菊地料理長:大豆選びにも注力し、日本全国を探して見つけたのが、北海道産「鶴の子」。大粒で希少価値があり、煮豆などに使われる高級品種です。作ってみたら、今まで食べたこともない甘味、旨味、香りが強いとうふが出来上がりました。創業者は人を驚かせることや楽しませることが好きでしたので、この自家製とうふをお客様に提供したら、驚きしかないだろうと、しばらく鶴の子を使っていました。
現在、豆水とうふに使っている豆腐は、甘味のある大豆や香りが高い大豆、たんぱく質の含有量が豊富な大豆など、さまざまな特徴をもつ4種類の大豆をブレンドして味わいに深みを出しています。品種や時期、寄せる温度などを見極めて微調整しながら作っております。
―――自家製とうふのおいしさは、こだわりぬいた水と大豆、職人の技があってこそなのですね。豆水とうふは、土鍋で提供され、目の前でスタッフの方がよそってくれるのも風情があり、それも味わいの一部。甘く濃厚で、なめらかですね。
菊地料理長:あえて低い温度で寄せて、さらにじっくり蒸したりと、本当に効率が悪すぎるくらいの工程で作っています(笑)
―――豆乳スープも香りが立って、コクがあり、上品でやさしい味わい。飲み干すおいしさです。この味わい深さの秘密は何ですか?
菊地料理長:豆乳を特製のだしで割って飲みやすくしています。これが現在の「豆水」です。お好みで添えた塩昆布と一緒に召し上がっていただいています。
名物料理に歴史あり。豆水とうふで湯葉づくり体験も
―――以前はこれよりもっと濃厚な味だったということでしょうか?
菊地料理長:この形になったのは2000年からですが、それ以前は純粋な豆乳でした。土鍋で温めると表面に湯葉ができるので、早く湯葉ができるよう、お客さまに小さなうちわを渡し、お客様自身で湯葉を作っていただいたこともあります。
ただコース料理として、濃厚な豆乳は少し重すぎたという点と、とうふは醤油をかけて食べるものというイメージがありましたので、「お醤油をください」「薬味をください」と言われることが多々あったことから、だしを加えた現在の豆水に改良していきました。
―――お客さまがより食べやすいように改良を重ねていったのが今の形なのですね。
菊地料理長:はい。ほかにもいろいろ改良しました。「とうふ屋うかい」の店舗は各部屋から風情ある庭が眺められるなど、本物志向で店造りを手掛けています。かつて「豆腐百珍」という料理本により、とうふ料理が庶民に広がった江戸時代の情緒あふれる世界観とリンクさせようと、当時は江戸の低いちゃぶ台で提供していましたが、居心地のよさ、食べやすさというものが求められていたので、現在のテーブル席に変えました。
―――海外からのお客様のとうふ料理についての反応はいかがですか?
菊地料理長:濃厚で旨味があって、チーズのようだと表現される方が多いですね。欧米でもとうふは食べられていますが、少し固いんです。ですので、日本でとうふ料理を召し上がられると、喜ばれるのでうれしいですね。一般的にとうふは料理の添え物としてのイメージがありますが、わたしたちのコース料理ではメインディッシュであり、名物料理です。そういった点でも意外性を感じていただけると思います。
菊地料理長:もう一つの名物が揚げ田楽です。こちらも職人が手作りしています。昔ながらの浮かし揚げという方法で、低温と高温をじっくり繰り返しながら油で揚げます。とうふの厚みも残しているのでしっとりと柔らかい油揚げに仕上がるんです。
―――こんがり焼かれ、表面はかりっと、中はふわふわでジューシー。とうふ自体の甘味もとても感じられる揚げ田楽、こちらも人気が高いですよね。もろみ味噌と、薬味をたっぷり添えて。お酒もすすみそうです。
お取り寄せでも楽しめる!自宅で食べる際のポイント
―――名物豆水とうふは、店舗だけでなく、お取り寄せもあるんですね。ぜひ自宅でも楽しみたいと思うのですが、自宅で食べるときのポイントや注意点はありますか?
菊地料理長:豆水を土鍋に入れてある程度温めたら、いったん火を消し、とうふを入れ、ふたをします。5~10分ほどたったら金串をさして、中心の温度が人肌くらいにほどよく温まったら、再度火入れし、豆水がふつふつしてきたら召し上がってください。
菊地料理長:とうふは温度によって感じる甘味が異なります。60度前後が一番おいしく、最大限に甘味を感じられるんですよ。とうふは芯まで熱々にならない程度に、豆水は熱々でいただくのがおすすめです。とうふが鍋底についていると焦げやすいので、時々おたまでとうふをおこしてあげるといいですね。
また、豆水とうふを召し上がった後は、残りの豆水で生湯葉をしゃぶしゃぶしてもいいし、豚肉やレタスを加えて豆乳鍋にしていただいても。締めはリゾットやうどんがおすすめです。さまざまな形で楽しんでいただければと思います。
株式会社うかい 物販事業部 食品開発・製造部 1968年宮城県生まれ。1986年株式会社うかい入社。「とうふ屋うかい大和田店」の立ち上げに携わる。2002年「とうふ屋うかい大和田店」料理長に就任。その後、「とうふ屋うかい鷺沼店」「東京 芝 とうふ屋うかい」料理長を歴任し、「うかい竹亭」を含む和食事業部の統括料理長を経て、現在に至る。機内食を監修、海外関連事業の開発、小・中学校での食育に携わるなど、幅広く活動している。好きな野菜は煮物系の根菜類。なかでも、どんな食材にも寄り添ってくれる大根ははずせない。生野菜が苦手だが、最近はパクチーにハマっている。 |
WRITER
敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。
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